イギリスの職場における多様性の現実を日本人は何も知らない

谷本 真由美

日本では職場における多様性が認知されてしばらくになりますが、多国籍、多人種なイギリスでは、大企業や政府などの組織の場合は、新規採用や従業員の多様性が経営指標に組み込まれており、人事部や事業部門の上級管理職の業績目標になっていることがあります。

ところが金融業界など特定の業種はまだまだ白人男性が主流で、女性や異なる人種の人は採用されにくいのが現実です。

保険会社大手のアビバは初の女性社長が誕生しましたが、そのような状況を打破するためになんと採用プロセスの最終承認を、社長である彼女とチーフ人事オフィサーがやることになり話題になっています。

イギリスで少し前に話題になったこの件は、多様性推進のために相当思い切ったことをやることになったものだと驚かれました。そもそもイギリスやアメリカだと、人事採用の承認は通常は部長とか部門長が最終決済することが多く、大企業で社長がすべて承認するようなことは少ないので珍しいケースですね。少なからぬ職場ではこれは「マイクロマネージメントでは?」と言われてしまいます。

56歳のアマンダ・ブランク氏が2020年に同社の初の女性最高経営責任者となって以来、同社が金融サービス業界での性差別を終わらせる取り組みの一環とされています。

アマンダ・ブランク氏 Wikipediaより

ブランク氏は、財務選択委員会の議員に対して、「アビバでは、私と最高人事責任者の承認なしには、多様性のない雇用はありません」と述べ、「シティにおける性差別調査」では「私がチームを信頼していないからではなく、採用のプロセスが多様性を持ち、適切に行われ、単なる仕事の誘いの電話ではないことを確認したいのです。仲間に尋ねて『仕事をしたいか?立ち寄って話をしよう』と言うだけでないように。」と述べました。

IR_Stone/iStock

上級職における選ばれた候補者が多様性に欠ける場合、つまり、アビバで雇用されている大多数の人々と「異ならない」場合=白人男性だった場合、ブランク氏と最高人事責任者は採用プロセスを確認することになっているので、全員を検証するということではないようです。

これが示すように、実は北米や欧州の金融業界やIT業界など、報酬の高いビジネスの世界は女性や人種的少数派はそれほど多くはありません。

特に金融業界はまだまだ男性の世界で、採用は日本のように新卒一括ではないので、大学の同窓生や中高の友達経由、前の職場の知り合い経由という感じで、お友達のコネで決まることが少なくありません。

公募もありますが、重要なポストはコネで決まることが多いです。

ですからそういう業界に行く人が多い中高や大学に進学することは大変重要です。そこでコネや知り合いを作ることになるからです。北米や欧州の受験は、偏差値だけではなく、どうやってコネを作るかが重要です。どこの学校に行くとどの業界に就職しやすいかという「裏リスト」と地元のそれなりの親は知っています。

ですからコネを作りやすい学校の学費は高額になっています。これは学費の払えない階層と差別化するためです。私学の場合は多様性や入学者の背景には厳しい監査が入らないことが多いので自由です。

ブランク氏は恐らくそういう現実をキャリアの中で見てきたのでしょう。女性で保険会社の社長になるのは大変珍しいケースです。

【参考記事】