日本政府は「海外開発援助」に関して有権者にもっと説明するべき

谷本 真由美

日本では開発援助機関であるJICAのアフリカホームタウン構想がネットで大炎上しました。これは8月に主催したアフリカ開発会議(TICAD)に合わせて発表されたもので、山形県長井市、千葉県木更津市、新潟県三条市、愛媛県今治市の4つの自治体を、アフリカのタンザニア、ナイジェリア、ガーナ、モザンビークの「ホームタウン」として認定して、各国と国際交流を促進する構想です。

ところがアフリカの現地メディアの報道がネットで発掘され、「移民促進ではないか?」という憶測を呼び、結果構想が撤回されています。

このような大炎上は実は背景にロシアの認知戦があり、偽情報をボットが拡散したと言う報道も出ていますが、日本政府にとっての課題が提示されたと考えます。

まず初めに、私の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズでも解説したように、日本の有権者は移民問題に関して大変センシティブになっており、外国人が日本に大量に入ってくることを脅威だと考えています。

日本政府はそこを十分理解していません。


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有権者は外国人がたくさん増えることで自分たちの生活空間が変わり、慣れ親しんできた店舗がなくなったり文化が変容してしまうことを恐れています。

そして犯罪の増加、医療費や学校への負担も恐れているのです。

これを変化を恐れるのは間違っていると断罪するのは間違いです。誰しも感情があって故郷に対する思いがあります。慣れ親しんだ店や風景は戻って来ません。

日本政府は有権者のそういった感情をあまりにも軽く見ているのです。

その次に日本政府はこれまで海外への政府開発援助(ODA)で一体日本は何をしているのか、税金がどのように使われてきたのかと言うことに関して十分に情報を開示してきませんでした。広報活動も不十分でした。

JICAという機関をこの炎上騒動で初めて知ったという方も多いでしょう。

TICAD9(第9回アフリカ開発会議)でスピーチをした石破首相(当時) 首相官邸HPより

政府開発援助が安全保障上に日本にとっては非常に重要な活動であり、海外の途上国を支援することでどんな効果が得られたのか、例えば資源を得るための協定を結ぶ下地になった、途上国の人が日本に移民することなく現地で働くことができるようになった、テロを防ぐことができたといったようなことをわかりやすく説明していくことが重要だと思われます。

実際に日本政府はインフラプロジェクトを中心に、たいへん素晴らしいことを世界各地で実施しており、それが日本企業の海外進出や途上国や中進国の経済発展に多大な貢献をしてきたことは事実です。回り回って国民の得になっているのです。しかしそれが説明されてこなかったので皆わかりませんでした。

これまでの開発援助の広報と言うのは国際協力とか国際交流といったぼんやりとしたよくわからないテーマが中心で、これは一般の有権者には全く意味がわかりません。

しかし島国で資源がない日本にとっては開発援助と言うのは非常に重要な「外交手段」の1つであります。その部分を十分に説明していくべきでしょう。開発援助をテーマにした映画やショートドラマももっと作られると良いと思います。

国際交流は、海外で日本の影響力と存在感を高めていく「ソフト外交」を実施していく上でも非常に重要であります。

しかし実際に途上国の若者を日本に招いてその20年後に彼らが母国の政治家やリーダーになると言うことをその目で見たことがない有権者の多くはなぜ国際交流が重要なのかを理解できません。

さらに私は政府は国際開発援助プロジェクトや議員の途上国への訪問などをネット上で可視化してリアルタイムで配信していくと言う活動が必要だと考えています。もちろん外交上の理由から可視化できないプロジェクトもあるでしょう。

しかしロシアや中国が認知戦を活発化する中で、日本が海外において自国の影響力を強化し有権者の支援を得ることが非常に重要であり、可能な部分は可視化していくべきです。

また最初からわかりやすく理由を説明して公開することで、ロシアや中国による偽情報の拡散やボットと対抗することができます。

これは先般参議院選で議席を獲得したチームみらいが、政党の予算や寄付を「見える化」して公開したような形です。

例えば2025年10月には牧島かれん氏がザンビアを訪問しているが、この様な訪問の理由や効果について、理由や結果を説明することで、有権者にはなぜザンビアとの関係作りが重要か理解できます。閣僚や議員の海外外遊に関しても同じです。

また限られた予算の中で明らかに必要ではないプロジェクトはカットしていくべきです。

例えば国内向けの広報活動で多様性を強調するものや環境に関するものは開発援助に関係があるのかどうかと言う点も議論されるべきではないでしょうか。

生活が苦しい人が多い中で、政府の活動を有権者は極めて厳しい視線で見ているのです。

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