新型コロナウイルス感染拡大の今こそ遠隔教育を充実させよと原英史さん・吉井勇さんたちが提言している。傾聴に値する提言だが、アクセシビリティ対応への言及が抜け落ちている。
そこで「デジタル活用教育にアクセシビリティ対応を」と題する記事を6回続けて投稿し、なぜアクセシビリティ対応が必要か説明してきた。今回は、それらの総まとめである。
(第1回)身体障害児、発達障害、ディスレクシア(難読症)、色覚異常などを合計すると、10人に一人以上の割合で何らかの障害をもつ子どもがクラスにいる計算になる。30人一クラスであれば3人か4人と無視できない。
これらの子どもがデジタルを活用した遠隔教育を受けるには、教科書・教材・教育サイト等のアクセシビリティ対応が不可欠である。しかし、文部科学省が開設した「子供の学び応援サイト」には画像PDFをそのまま貼り付けたドリルがあるなど、アクセシビリティ対応は不十分である。
(第2回)NHKが提供する教育コンテンツ「NHK for School」は、放送された教育番組をそのままの形でネット配信するので大半に字幕がある。しかし、大半には音声解説はない。多様な子供たちがNHK for Schoolのコンテンツを自由に利用するためには、番組丸ごとのコンテンツには音声解説を付与し、番組から切り出したクリップにも字幕や音声解説を付ける必要がある。
(第3回)文部科学省の「子供の学び応援サイト」には「わくわくサイエンスリンク集」というバナーがある。ここからリンクされる、科学技術振興機構、日本科学未来館、国立歴史民俗博物館、宇宙航空研究開発機構などのサイトは、ウェブアクセシビリティに対応していない。総務省は2016年に「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を公表し、国及び地方公共団体等公的機関にウェブアクセシビリティ対応を求めたが無視されている。
(第4回)博物館・美術館・動物園・水族館などの施設は、科学や芸術に関する様々な知識を子供たちに提供する重要な公共機関である。しかし、大半のサイトはウェブアクセシビリティに対応しておらず、「画像にテキストによる説明(代替テキスト)が付いていない」「固定サイズのフォントが使われている」「文字色と背景色のコントラストが不足している」などの問題がある。
(第5回)デジタル教科書にはアクセシビリティ支援機能が付加されているが、その設定方法は教科書出版社ごとにまちまちである。子供たちのタブレットに支援機能の設定方法が異なる各社のデジタル教科書が搭載されるのは、子どもたちに大きな負担になるし、それを支える教員や保護者も苦労する。
(第6回)教材・教科書・教育サイトの連動(相互運用性の確保)によって、デジタルを活用した教育は効果を高める。しかし、現状はアクセシビリティの不備によって、連動が妨げられている。
連載を終えるにあたり、原さん・吉井さんたちの提言にアクセシビリティを加えるように、改めてお願いする。