-世界の植民地の中で合法的に植民地になったところがどこにあるのか。右傾化した日本の政治家たちは韓国の強制占領を認めていない。-
これは今年1月に着任して2カ月を経ても、菅総理どころか茂木外相にすら面会してもらえていない新しい駐日韓国大使姜昌一氏がかつて述べた一説だ。
発言は、韓国中央日報が「悪化の一途をたどる韓日関係を解決するための韓日ビジョンフォーラム」と銘打って、19年4月から連続開催している韓国各界の識者による討論会の第10回、「国内法と国際法の認識の差を狭め強制徴用衝突を解決しよう」との題目の議論の中でなされた。
申珏秀(シン・ガクス)元駐日大使が、先の大戦後に多くの旧宗主国と植民地は植民地支配を認めて、「承継協定」により権利と義務の関係を明確に終結させたが「韓国は非常に複雑かつ例外的」だ。国際社会の視点と我々の憲法的視点の間に「ギャップ」がある。と述べた後に姜発言があった。
姜氏の我が国に関する過去の発言が様々取り沙汰されている。が、筆者は冒頭の発言が姜氏の日本に対する見方を現して余りあり、他の発言は彼のこの誤った歴史認識に由来すると考えている。そもそも日本は韓国を条約によって合法的に合邦したのであって、植民地化でもなければ違法でもない。
こういう酷く間違った歴史観を日本に対して懐いている人物を日本大使に任命すること自体、大使の役割の何たるかをまるで弁えない、文在寅大統領の思慮の浅さを物語っていよう。ちなみに、大使の任務について「国立国会図書館リサーチナビ」には次のような解説がある。
-大使の主な任務には、本国を代表し、接受国政府と直接外交交渉を行うことや、本国の国益の増進および本国民の生命・財産の保護に努めること、接受国の情勢の把握に努めて報告することなどがあります。なお、大使は、外交官としての外交特権(身体等に対する不可侵、裁判権からの免除等)を有します。-
が、ここに書いていない大事なことがある。それは両国の友好と親善に尽くす「志」と相手国に対する「敬意」だ。野村吉三郎や同じ時期に交換船で10年ぶりに帰米し、戦争末期に皇室の存続に尽力したジョセフ・グルーのように。これらを欠いては、前記の任務のどれも全うに果たすことは叶うまい。
ならば姜氏の「志」や「敬意」はどうか。1月27日のハンギョレに、姜氏に対する5,000字を超える長いインタビュー記事が載っていて、姜氏の新駐日大使としての抱負が語られている。案件ごとにその発言を見てみよう。
慰安婦合意について姜氏は、韓国は慰安婦合意を破棄していないし、合意で最も重要なのは韓国政府がこの問題についてこれ以上提起しないということで、その後、韓国は日本政府に問題を提起したことはないという。これは詭弁だ。少女像の撤去はどうなった? 裁判の不当判決も続いている。
18年12月の「哨戒機事件」については、「強制動員の最高裁判決をどう解決するか、両国の努力が必要な時に、安倍政権が哨戒機事件を拡大させ」た。この「日本政府の対応はよく理解できない」とする。「拡大させた」とは何たる言い掛かりか。哨戒機事件ではなく韓国艦による「レーザー照射事件」だ。
ホワイト国外しも「安保的に非友好国という意味」だから、韓国はGSOMIAを終了せざるを得なかったと姜氏はいい、これは「大日本帝国を夢見る理念家型」の安倍総理が、「北朝鮮脅威論」を持ち出して軍事大国化を行い、その後に「朝鮮民族脅威論」、「朝鮮半島脅威論」を進めたと述べる。
酷い妄想だ。ホワイト国外しを「安保的に非友好国という意味」に解するのは良い。ならば、日本が管理を強化した3製品の輸出先を先ず詳らかにせよ。日本のいう安保とはそのことだ。だのに、これをやめられるはずのないGSOMIAと結び付けるなど、世界の笑いものになるだけのコケ脅しだ。
また姜氏は「強制動員と慰安婦の被害問題は違う」と述べ、「強制動員判決は、被害者が労働し、受け取れなかった賃金、退職金、強制貯金させられた金などを要求し、日本企業に対して民事訴訟をした」という。これも間違い。原告の要求は「慰謝料」で、未払い賃金などではない。それこそこの裁判が狙った「肝」ではないのか。
慰安婦被害者たちの今回の訴訟は、金ではなく名誉を要求しているともいうが、ならば金は一銭も要求していないとでもいうのか。が、この訴訟は日本政府を相手取ったもので「二つの判決を混同し、ごちゃまぜにして対応してはならない」と姜氏がいうのは正しい。
しかし、だからこそ「主権免除」という国際法に反するのだ。が、姜氏は「今回の判決で、慰安婦被害者の司法正義が実現されたと思う。その後の過程は両国政府が賢明に解決しなければならない」という。だがそれは韓国の「蛸壺」司法正義であって、国際社会の常識とは程遠い。
赴任後にしてなおまともな発言が一つもないのかと探すと、ひとつあった。韓日問題の「政治的解決策」について姜氏が「韓国は完全な三権分立の国だが、・・司法府の判断は尊重するものの、政治的に解決する方法はないのか、これを真剣に考えるべきだ」と述べたことだ。
姜氏は「大統領が私を駐日大使に任命したことそのものが、日本に対する強力なメッセージとなったと考える」といい、大統領からも「期待するところが大きい」といわれたとする。が、日本には「負のメッセージ」だし、文在寅は、後にあらゆる手段で切ろうとした尹検事総長にも同じセリフをいった。
このインタビューからひと月半経った11日の中央日報は、姜氏が前日の特派員懇談会で「日本に来てみたところ、考えていたよりも雰囲気が冷たい」と明らかにし、「(両国関係が)最悪の状態だというのを肌で感じることができた」と述べたと報じた。この人らしい鈍感さというべきか。
記事は、読売新聞などが「日本政府は慰安婦問題や元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題で、韓国側が受け入れ可能な解決策を示すまでは面会に応じない構え」と伝えていることも報じている。韓国に対する日本の一貫した姿勢を、国を代表する大使に示すのは至極当たり前のことだ。
姜氏にアグレマンを出したことは総じて不評だった(慰安婦合意もそうだった)。が、こうして姜氏を晒し者にすることが、韓国に対するなかなかの上策とも思え、菅政権の奇計だったかなどと想像してしまう。おそらく結果オーライだろうが、今の姿勢は貫いて欲しい。