障がい者に訊く京都ALS事件③ ~パラリンピック番組は視てません~

筒井 冨美

Irina Gutyryak/iStock

2020年7月、京都市内の筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, 以下ALS)患者が、SNSで知り合った2人医師の手を借りて「安楽死」を遂げていたことが大きなニュースとなった。ALSとは全身の運動神経系が徐々に侵される病気で、歩く・話す・食べるといった行為が段々と困難になり、進行すると呼吸すら困難になる一方で、意識は末期でも保たれている神経難病である。

私はSNSを通じて、ある難病を患う女性と出会った。くらんけ(@IrreKranke)というハンドルネームで主にTwitterで発信している。早ければ2021年8月末にはスイス渡航して安楽死を選択する予定だと言う。幸いにも直接お話を伺う機会を得たので、ここに記したい。

(前回:障がい者に訊く京都ALS事件②

――最近、パラリンピック関連番組が多いけど視てますか?

くらんけ氏(以下:くらんけ):視てません、あまり面白くないし(笑)。「障がいを乗り越えて栄光を掴みました…」みたいなストーリーが多くて…パラアスリートは立派だと思いますけど、感動を強要するような番組はちょっとね。全ての障がい者がパラスポーツに興味ある訳ではないので。

――パラリンピックの学校観戦が話題ですが?

くらんけ:情操教育として強要するのは良くないと思う。観たい人が見るのはいいけど。授業で強制的に見せて、感動的な作文を強要するのは、大人たちを満足させるだけでしかない。求められているであろう文を書かせて何になるのか。マイナスイメージや思ったことを素直に書けば確実に説教されるわけで、むしろ反感や悪意のあるイタズラ心を持たせてしまいそう。駅で後ろから障がい者をドンと突き飛ばすような子供を作ってしまいそうで。

――駅と言えば、最近は社会運動家みたいな障がい者が目立つけど、どう思いますか?2021年4月に「来宮駅(無人駅)で車椅子対応」を要求した車椅子ユーザーとか。

くらんけ:「大人げないなあ」と思います。乙武さんの銀座レストラン事件(2013年に、車椅子ユーザーの乙武洋匡氏が銀座のエレベーター無レストランで「自分を抱えて2階まで運んでくれ」と依頼したのを断られて、レストランの実名入りでSNSで非難した事件)なんかもそう思います。世の中の構造って、どうしても多数派に便利なように作られているし、障がい者は少数派なので。「『わきまえない』ことが立派」みたいなこと言う人いるけど「わきまえろよ!」と言いたい。

来宮駅の人も、最終的には駅員さんに車椅子を運ばせているんだし、「怒る」のは違うと思う。車椅子ユーザーは普段からいろんな人に気使ってもらえることも多いわけで、それに胡座をかいて批判されたら「弱者を叩くのか!」と騒ぐのは違うでしょう。少なくとも「事前に電話」ぐらいは仕方ないことですよね。

たぶん、このぐらいが多数派の車椅子ユーザーの感覚だと思います。SNSでは過激な少数派の方が目立つけど。

インタビューに応じるくらんけさん

――2019年、れいわ新選組から参議に当選した車椅子ユーザーの舩後靖彦氏と木村英子氏は、どう思いますか?

くらんけ:木村さんが大西つねき氏騒動(れいわ新選組の大西つねき氏が動画投稿サイトで「高齢者をちょっとでも長生きさせるために子供たち・若者たちの時間を使うのかっていうことは、真剣に議論する必要があると思います」「命、選別しないとダメ」などの発言に対して「命の選別を許すな!」と炎上した事件)の「当事者の意見を聞く会」で泣いちゃったのはねぇ…。「命の選別が始まったら、私たち障がい者は真っ先に排除される、こわいわぁ~(涙)」みたいなアピールをしていた。あれは飛躍しすぎですよね。「障がい者」「女性」という二重の弱者アピールで戦略的に泣いたのかもしれない。その効果なのか、大西つねき氏は政党を除籍されてしまいましたね。

木村氏や船後氏や乙武氏は身体的には弱者かもしれないけど、経済的には勝ち組ですよね。社会的にも弱者ポジションではないと思います。

――参院議員なら年収約3000万×6年間が保障されていますからね

くらんけ:えぇ~すごい、私、れいわ新選組から出馬しようかしら(笑)。でも私、都合よくタイムリーに泣けないからダメだわ。「障がい者は、もっと社会的常識を持ちましょう」みたいな主張だと選挙ウケしないでしょうし。そういえば大久保先生も以前、「宮城県知事に出馬してみようかな」みたいなことを言ってました。「一緒に出馬しませんか」って言われたこともあった(笑)。どこまで本気だったのか分からないけど、「世の中を変えたい」という想いがあったと思います。

――障がい者が政治家になることをどう思いますか?

くらんけ:まあ、いいんじゃないですか、当事者じゃないと分からないこともあるし。でも人選が大切ですよね、バランス感覚とか。発言力があるから、障がい者議員個人の発言が「障がい者全体の総意」と解釈されると困りますね。

ALSの船後議員は「安楽死は絶対反対」だけど、私みたいにそうじゃない人も居るんだし。「安楽死反対論者」は護りつつ、「安楽死したい人の制度も整えてゆく」みたいなのが理想だと思います。最近は多様性とかジェンダーレスとか尊ばれるけど、安楽死も選択肢として増えてゆくのが理想だと思います。もっとシンプルに「生きたい人は全力で生を謳歌し、死にたい人は潔く去る」でよいのでは。みんな違うんだから。

④に続く

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