障がい者に訊く京都ALS事件④終 ~迷いはあります、人間だもの~

Irina Gutyryak/iStock

2020年7月、京都市内の筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, 以下ALS)患者が、SNSで知り合った2人医師の手を借りて「安楽死」を遂げていたことが大きなニュースとなった。ALSとは全身の運動神経系が徐々に侵される病気で、歩く・話す・食べるといった行為が段々と困難になり、進行すると呼吸すら困難になる一方で、意識は末期でも保たれている神経難病である。

私はSNSを通じて、ある難病を患う女性と出会った。くらんけ(@IrreKranke)というハンドルネームで主にTwitterで発信している。早ければ2021年8月末にはスイス渡航して安楽死を選択する予定だと言う。幸いにも直接お話を伺う機会を得たので、ここに記したい。

(前回:障がい者に訊く京都ALS事件③

――具体的な安楽死の方法は?

くらんけ氏(以下:くらんけ):ライフサークルの場合、医療者は安楽死薬を詰めた点滴を準備してくれますが、ストッパーを外す行為そのものは患者自身で行う…と聞いています。長年にわたって準備してゆるぎない覚悟があっても、いざとなると怖気づいてストッパーが外せないかもしれませんね。

――「安楽死の許可をもらっても実行しない」ケースもよくあるのですか?

くらんけ:安楽死ほう助の予約をしたからといって、キャンセルはいつでも可能です。渡航して安楽死薬を摂取する瞬間まで患者は拒否することが可能です。

スイスの別の安楽死団体であるディグニタスによると、「厳格な審査に合格した患者のうち7割が権利を実行しなかった」という調査結果を発表しています。出口が確保できている安心感や、病苦に束縛されない圧倒的な解放感に包まれたためでしょう。「『いつでも死ねる』は最強の健康法」…と、かねてより私は主張しています(笑)。

――ディグニタスとは日本人だと、美容外科医の高須克弥氏が会員になっている団体ですね。

くらんけ:ですね。会員になるだけなら年会費払うだけなので、安楽死の権利の獲得とは全く別ということ高須先生にはきちんと周知してほしいです。

――現実の病院でも、ALSの患者さんで「病気が進行しても人工呼吸器を希望しない」と文章で表明していた方でも、いざ呼吸が苦しくなると「やっぱり付けます」と撤回するケースは稀ではありません。2019年には、東京都福生市の病院で40代患者が、あらかじめ「透析治療を希望しない」同意書に署名したけど、病状か進行すると「やはり透析してほしい」と看護師に伝えたものの治療は行われず亡くなったケースがありますね。大きな公立病院だと職員数が多く、コミュニケーションも万全とは言い難いので、このような患者の迷いには対応しきれなかったのかもしれません。

くらんけ:人間だから、迷いや葛藤があるのが当然でしょう。私の両親は、娘の決定を尊重してくれるものの心から賛成している訳ではありません。今日もインタビューの場所までは連れてきてくれたけど、インタビューは見たくないらしく買い物に行ってしまった。メディア取材の時はいつもそうなんです。

スイス渡航は父親が同伴してくれる予定だけど、葛藤しているのも伝わってきます。出発の日が近づくにつれて母も精神的にダメージを受けているようだし、渡航前に発作的にパスポートを焼き払われてしまったら…私は渡航できなくなります。

あと、世界的にコロナウィルスのデルタ株も大流行しています。この調子では、いつ渡航に制限がかかっても不思議ではありませんし。

――他にもメディアの取材申し込みもありますか?

くらんけ:はい。テレビで「渡航から安楽死まで密着取材」のお話とかムッチャきてます。家庭内も病院での通院の間もずーっとカメラを廻す…みたいな、お断りしましたけど。父も「ウチは見せ物じゃないんだ!」って怒っていたし。「講演会しないんですか?」とも聞かれるけど、講演会って「障がい者だけど病気に負けず前向きに過酷な治療もしながら一生懸命生きています!」みたいな話が期待されるじゃないですか、私そんなキャラじゃない(笑)。

――SNSでの発信が向いていたのかもしれませんね

くらんけ:でもTwitterのフォロワーには変な人もいて、いろいろ誹謗中傷されたり…「楽に死ねる」ってそんなに妬ましいことなのかしら。生活保護の逆で、使う税金の額は確実に減るわけだけど、既得権益の問題などで患者に死なれたら困る人たちがいますからね。むやみやたらな「延命労働」なんてその最たるものじゃないですか?

くらんけさんのスマホ

――世の中、「違うことをする人を叩かずにはいられない人」っていますからね。

くらんけ:そうそう、アンチのいない人は居ない。そういう人はスイス渡航が延期になると、それはそれで文句言ってきそう。「まだ死なないの」みたいに。2020年にコロナ禍で渡航延期になった時も「死ぬところがみたくてフォローしていたのに」とコメントもらったことあります。

――逆に「死なないで!」と引き留めてくる人は?

くらんけ:いないですね。普通の人は「おめでとう」「もっとお話ししたかった」「悲しいけどお祝いすべきなんでしょうね」みたいな反応です。

――インタビューをありがとうございました。無事の渡航を祈ってます。だめだったら、またSNSで発信してください。

くらんけ:はい。

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