スペインで事業を軌道に乗せるための試行錯誤とは

家具の小売業者の開拓

1990年代から日本の家具の小売業者がヨーロッパに積極的に買い付けに行くようになっていた。それまで輸入業者からの仕入れで高いものを買わされていたということに気づいたのである。しかし、卸価格が高くなるのも当然といえば当然であった。輸入卸業者は仕入れても売れるのか否かわからない。またいつ売れるのかも不明ということ。更にそれを倉庫に抱え込む保管費用などを考慮するとどうしても高い価格で売らざるを得ないということも筆者は十分に理解していた。

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だから、賢明な小売業者は自ら直接輸入しても売るのにそれほど負担のかからないものを直接輸入するようになった。そうすれば仕入れコストも割安になる。また、小売業者が直接輸入すればこれまで輸入業者が輸入を敬遠していた商品も輸入できるようになって店内での展示商品もバラエティーなものになると考えるようになっていた。

ということで、ミラノ、ケルン、バレンシアといった主要家具展示会には日本から小売業者が頻繁に訪問するようになった。出展社側にとって、日本からのブースへの訪問者が卸業者か小売業者か分からないのでone priceだけでオファーした。卸価格と小売価格の区別はしなかった。

ここで小売業者にとって一つのネックがあった。展示会などで異なったメーカーから色々な商材を仕入れることはできるが、それをまとめるのは容易ではない。その買い付けのアレンジをしてくれる人が現地にいれば助かるということだった。

そこで弊社の存在価値が出て来たのであった。弊社はメーカーへの買い付けは日本の小売業者に代わって弊社が行う。小売業者は弊社に一括して支払ってもらう。各メーカーへは弊社の方から支払う。買い付け商品の各社からの集荷並びに通関そして船積はすべて弊社がコントロールする。コンテナー積みも筆者のパートナーが一括して弊社の倉庫でコントールしてコンテナーが満載になるように積む。これらのサービスが弊社の得意技としていた。

小売業者との取引が実現するようになってから弊社は事務所を移転し、筆者が在住している同じ町の工場団地の中に社屋を借り、1階は800平米の倉庫、2階を事務所にした。そこに社名MARCO OAKDAと書かれた看板も付けた。社員は筆者を含め4人で、それにコンテナー積みの時はアルバイトを2人雇った。

弊社社屋と社内

ということで、積む商品はすべて弊社の倉庫に一旦入荷させて、そこでコンテナー積みするようにした。このようなサービスはコミッションエージェントではできないサービスであった。弊社がオファーするので価格はメーカーから直接仕入れるよりも高くなる場合もある。しかし、弊社のサービスを考慮すると、いちいち買い付け先に別々に送金することや、コンテナー積みのことなどを総合的に考慮すると寧ろ弊社からの買い付けの方が割安になる場合が往々にしてあった。しかも、弊社が買い付けをするので、メーカーをよりコントロールしやすい。

倉庫と事務所がある社屋に移転する前は近くのマンションを借りてそこを事務所にしていた。そこでパートナーと筆者が一つの部屋、隣の部屋は秘書が2名で一人は日本人。そしてもうひとつの部屋を商談室にした。

スペイン人の秘書は筆者のマンションの隣人の娘、日本人は最初は土方佳子さん、そのあと本田サトさん、そして鈴木アカリさんが働いてくれた。土方さんは毎日電車とバスを乗り継いで2時間の通勤時間であったが頑張ってくれた。帰国することになって退社した。そのあと本田さんが勤務したが、彼女も帰国することになって退社。鈴木さんの場合は結局弊社の景気が下火となって人員削減で辞めてもらった。皆さん大変熱心に働いてくれた。

このマンションの事務所からも日本の小売業者の開拓にサーキュラーが再発送された。それも徹底して郵送した。この頃には交信はテレックスに代わってファックスになっていた。

会社を継続させるには新規の顧客を絶対に見つける必要に迫られていた。その成果があって、1993年頃から日本の小売業者の訪問を受けるようになった。

彼らが訪問してもその場での注文はなかった。そこで筆者が日本に行ってとどめを刺す必要があった。訪問して注文を貰うということである。

バレンシアへの訪問者の一人にユニークな女性がいた。JETROが企画した中小企業の貿易振興を図ったミプロプランを利用しての訪問であった。彼女との雑談の中で筆者が松田聖子のことを知らないと言ったら、彼女の方から「あなた、化石のような人ね」と言われたのは今も鮮明に記憶している。

当時の筆者は頻繁に帰国しているわけではなく、インターネットもなかった。唯一、日本の新聞を購読するくらいが情報源であったが、筆者はそれも購読していなかった。だから、日本の情報には疎かった。

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