共和党の反撃に晒されるバイデン民主党の大ブーメラン

オバマ政権当時のバイデン副大統領が機密文書を事務所に保管していた事件が発覚した。バイデンは「驚いた」と述べている。我が立憲民主党がブーメランを得意技にしているのを知らない日本人は少なかろう。が、目下の米国政権与党であるバイデン民主党もこれほど見事にブーメランを投げるとは。

10日の「CNN」に「文書が発見されたのは中間選挙6日前の11月2日だが、この件が公になったのは月曜日(1/9)の報道だった」とある。文書の日付は13年から16年の間で、ウクライナやイラン、英国などの話題を扱った米情報機関のメモや説明資料など10点の機密文書が含まれているという。

昨年8月にFBIがトランプのフロリダ私邸(マーアラゴ)を急襲して機密文書とされるものを押収、ガーランド司法長官は特別検察官を任命して調べさせている。ウォーターゲート事件を機に成立した「大統領記録法」は正副大統領の全ての公式記録の管理と保存を大統領に義務付ける。

トランプは早速、「FBIはバイデンの沢山の家をいつ捜索するのか?」、「副大統領は文書を機密解除できない。これは連邦記録法の対象で犯罪であり、犯罪ではない大統領記録法よりもはるかに厳しい。大統領である私は機密指定を解除できる」とTruth Socialに書き込んだ。機密文書の指定も解除も大統領固有の権限という訳だ。司法長官による二重基準は許されまい(ペンス前副大統領)。

この事件に限らず、ハンター・バイデンのラップトップ事件がビッグテックや大手メディアによって20年の大統領選挙前から隠蔽されていたことが、マスク氏のツイッター買収を契機に露見しつつあるように、民主党にとって不都合な情報は選挙前には決して表沙汰にならない。

その一方、21年1月5日のジョージア州上院選(決選投票と補欠選挙)の前日に「ワシントン・ポスト紙(WaPo)」などメインストリームメディアが、トランプが2日にジョージア州の州務長官との電話会談で、「選挙結果を覆す票を『見つけろ』と要請した」などと挙って報じた事件があった。

「Wapo」の文字起こし全文を読めば、記事の見出し「17千余票を見付けろ」は言葉の綾であって、トランプが架電した趣旨が「郵便投票の署名と有権者登録の署名との突合」の要請だったと知れる。が、5万字を超える文字起こしを読む国民は稀で、10数文字の見出しが独り歩きした。結果、共和党は2議席とも逸し、昨秋の中間選挙でも同じ民主党候補の一人が勝った。

斯様に共和党に不利なニュースはいつも選挙前にセンセーショナルに姿を現す。先述のFBIによるマーアラゴ急襲といい、ペロシ肝入りの21年1月6日事件の「セレクト委員会」が昨年6月から中間選挙前まで延々と公開ヒアリング(「J6公聴会」)を続けたのも、その事例だ。

オバマ元大統領夫妻とバイデン大統領夫妻 ホワイトハウスSNS(2022年12月31日)より

だが、先の中間選挙で共和党下院が4年振りに議席の過半数を奪回したことで風向きが変わった。共和党は12月21日、「J6公聴会」の最終報告に先んじて、「影の委員会」による「報告書」を公開した。共和党による逆襲の第一歩といえる。

「影の委員会」とは、共和党下院トップのマッカーシーが「J6公聴会」の委員に指名した議員7名のうちのジム・バンクスとジム・ジョーダンをペロシ下院議長が拒否したため、マッカーシーが残りの人選を取りやめた5名によって構成される共和党下院のJ6調査委員会だ。

「セレクト委員会」はリズ・チェイニーとアダム・キジンガーの2人が、マッカーシーに従わず委員になったので、両党7名ずつのはずが7名vs2名になった。トランプが「アンセレクト委員会」と揶揄する所以がこれだ。因みに先の中間選挙ではチャイニーは惨敗、キジンガ―は立候補を断念した。

141頁に上る「影の委員会」の報告書は、J6の議事堂警備に主たる焦点を当てている。即ち、議事堂警察はJ6の暴力を予想するに十分な情報を持っていたのに、情報部門が「指導者の誤った優先順位によって損なわれていた」とし、また、下院警備隊長が「1月6日以前の脅威環境に十分な注意を払うことを、他のいくつかの予定されたイベントによって逸らされた」と書かれている。

またペロシ側が、彼女が1月6日のセキュリティプロトコルに関する権限を持っていたという下院共和党の主張を繰り返し否定し、日々のセキュリティには関与していないとして、議事堂警察委員会の管理権限は下院と上院の警備隊と議事堂警察で構成されていると主張していることを指摘する。

が、報告書は「下院警備隊から提供された文書によると、当時のポール・アーヴィング警備隊長が、ペロシや他の民主党のスタッフに明確に敬意を払いながら職務を遂行したことが判る」とし、下院が開会中の場合、下院警備隊は「議長の指示により秩序を維持」することになっているとの下院規則を指摘し、加えて1月6日に至るまでのペロシのスタッフと下院警備隊長の間で交わされた、安全に関する勧告についてのやりとりの記述もある。

共和党は21年2月の時点で、この報告書と同様にペロシの責任を問う主張を含む質問書をペロシ下院議長に提出していた。筆者もそれについて本欄に寄稿したが、あれから2年が経ち、共和党下院が多数派となって主要委員会の委員長を独占することで、J6事件の真相も解明されることを望む。

この拙稿で筆者が難じた産経の黒瀬悦成ワシントン特派員は、今や本社の副編集長兼外信部編集委員に出世した。郷土横須賀と高・大の大先輩である石井英夫元産経抄子の縁で、40年来産経一筋で来た筆者だが、こういう輩が偉くなるようではそろそろ産経に見切りを付けねばならぬかと悲壮な思いだ。

10日の産経「黒瀬悦成の米国解剖」は「下院議長選にみる共和党の混沌」の見出しで、「共和党が議長選で醜態をさらした根本原因は、昨年11月の中間選挙で同党が下院を民主党から奪還したものの、選挙戦でトランプ氏が悪目立ちして穏健な有権者が離れ、過半数をわずかに上回る議席しか確保できなかったことにある」と相変わらずのトランプ批判だ。

ところがその後で「強硬派の議員を最終的に説得して幕引きに導いたのもトランプ氏だ」、「ソーシャルメディアに『わが国のために一肌脱いでやった』と書き込み、自身の手柄を強調した。衰えが指摘されるとはいえ、現在も党内に相当程度の影響力を維持しているのは事実だろう」などと書いて、いつもの二股膏薬が顔を出す。無定見もいい加減にせよ。

その点、根っからの民主党応援団長である海野素央明大教授は「次の2年間、『MAGA対MAGA』と『MAGA対反MAGA』の2つの対立構図がある中で、共和党は党内の『統一』がかなり困難になりそうだ」(「Wedge ONLINE」)と潔い。だが、黒瀬の見立ても海野のそれもきっと外れる、と筆者は思っている。

1月5日、親しい友人にマッカーシーで決まる理由を、「Politico」「Hill」「Axios」「Newsmax」などの米メディアをwatchしていた筆者はこうLINEした。

  • 下院議長を民主党に譲ることはあり得ない→遠からず結束する
  • マッカーシーは下院院内総務として実績がある
  • トランプが支持を表明した(反対派5人にマッカーシーを支持するよう12月半ばに要請していたトランプは、昨日改めて結束を求めた)

反対派の中核はフリーダムコーカス(FC:デサンティスも一員だが今回はマッカーシー支持)というかつての自民党青嵐会のような強硬派で、例えばマスク・ワクチン強制の廃止なども主張している。直近の投票で20票を取った強硬派のジム・ジョーダンはこのグループとは一線を画していて、議長への意欲はなく、かつトランプとマッカーシーの支持者だ。

マッカーシーはFCの出す条件を飲みつつ、目下妥協を図っている。投票は過半数218を取る者が出るまで繰り返される。「議長は議員がなる」という決まりがないので、僕はトランプやペンスが議長をやっても良いと思う。

3回やった投票のたびに反対が増えて、民主党から歓声が上がったと報じられたが、より反民主党の政策に近づく過程なのに、米国でも民主党は愚かだね。

この辺りを本欄に寄稿しなかった理由は、本欄の速報性の問題からだ。脱稿から掲載まで40時間以上かかるため、その間に結果が出てしまい、気の抜けたビール原稿になる可能性があった。

さて、そのマッカーシーがFCに譲歩した主な項目について、11日の「Washington Free Beacon」が詳報している。

先ず不信任案動議基準を5人から1人に引き下げる件だが、それを成功させるには下院議員の過半数が必要であり、そのためには民主党と組まねばならぬが、右派強硬派がそれをすることはあり得ない。

次に、重要な下院委員会の9委員長のうち3つをFCに譲ったが、FCにはトランプとマッカーシーの強力な支持者であるジム・ジョーダンやマージョリー・テイラー・グリーンもいるし、また下院規則委員会の委員長もマッカーシー支持者のトム・コールであるなど、FCも反マッカーシーばかりではない。

法案を議場に移す前に、議員に72時間の審査時間を与える件は、ペロシ前下院議長が議員に法案を読む時間を十分に与えずに投票を強行したことに共和党議員は長年不満を抱いており、むしろこの規則改正はその不満に対処するためのものだ。

他は省くが、これら譲歩は何れも反民主党に振れる性格のものであって、黒瀬氏や海野氏が述べる希望的観測が外れる公算の方が強い。加えて、今般のバイデン文書、マスクが暴くツイッターの内幕、ハンターのラップトップを始め、共和党下院が民主党の脛の傷に塩を擦り込む材料には事欠かない。

ここ数年、ひたすらトランプ押しで来た筆者は、来年の大統領選を経てトランプの米国が戻ってくることこそ、隣国の脅威に晒される我が国の安全保障に資すると考える。黒瀬氏や海野氏の吠え面も見たい。その時の日本の布陣は菅総理、高市官房長官、萩生田自民党幹事長、それが筆者の初夢だった。