2024年連邦議会下院選挙、接戦は25の選挙区/続くゲリマンダ訴訟は2024年総選挙には間に合わない

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前回(2024年米総選挙:上院は共和党・下院は接戦/共和党予備選はトランプ前大統領リードが続く)の続きで、最も接戦になりそうな下院選について書いていく。

連邦議会の下院議席数は435議席。最初に全州に1議席を配分し、残りの議席を人口比例方式で配分していく。なので、どんなに人口が少ない州でも下院議員を1名代表として送り込めることになっている。10年に1回行われる国勢調査の人口ををもとに配分が決まる。発表当時はCA州の減少がかなり話題となった。

2024年の下院議会選挙で接戦とされているのは 25議席だ。Cook Political Reportをはじめとした選挙予測メディアでもToss Up認定は25議席。2024年はこの25議席を巡った戦いとなる。正直それ以外は、選挙区割りでだいたい決まる。今年は両党あわせて30名弱引退する下院議員がいるのだが、引退するから接戦になるという選挙区は数件しかない。

刑事訴追されたサントス議員を含めると現職共和党議員の議席が14名、民主党が11名となる。仮に、全議員が議席を死守したと仮定すると共和党の議席が221名・214名となる。下院議員引退のための2議席、刑事訴追されたサントス議員の1議席を除けば、22席の現職議員が再選できるかの戦いとなる。

選挙区 Party 現職の下院議員
AZ州 1区 共和党 David Schweikert
AZ 州6区 共和党 Juan Ciscomani
CA州13区 共和党 John Duarte
CA州22区 共和党 David Valadao
CA州27区 共和党 Mike Garcia
CA州41区 共和党 Ken Calvert
CO州3区 共和党 Lauren Boebert
CO州8区 民主党 Yadira Caraveo
ME州2区 民主党 Jared Golden
MI州7区 民主党 Elissa Slotkin(上院選出馬のため引退)
MI州8区 民主党 Dan Kildee(議員引退)
NC州1区 民主党 Don Davis
NJ州7区 共和党 Tom Kean
NM州2区 民主党 Gabriel Vasquez
NY州3区 刑事訴追されたサントス議員(共和党)の議席
2024年2月13日に補欠選挙が予定されている
NY州4区 共和党 Anthony D’Esposito
NY州17区 共和党 Michael Lawler
NY州19区 共和党 Marc Molinaro
NY州22区 共和党 Brandon Williams
LA州05区 共和党 Julia Letlow
OH州13区 民主党 Emilia Sykes
OR州5区 民主党 Lori Chavez-DeRemer
PA州7区 民主党 Susan Wild
PA州8区 民主党 Matt Cartwright
WA州3区 民主党 Marie Perez

接戦とされている選挙区にはNY州が5議席も含まれているが、NY州の選挙区割はまだ確定していない。というのも、12月中旬にNY州控訴裁判所が選挙区割り委員会に対し、2020年国勢調査のデータに基づいて修正した議会区割りを州議会に提出するよう命じたからだ。期限は2月28日となっているため、同じ選挙区での現職議員は立候補できない可能性が残されているのだ。

選挙区割りとゲリマンダ訴訟

連邦議会会員議員選挙では選挙区割りのゲリマンダに目を向ける必要がある。下院選挙区なんて、選挙区割りでどちらの党が勝つか決まるといっても過言ではないのだ。選挙区割りの決め方は州によって異なる。基本的には州議会が区割りを立法し、知事が署名して法律となり決まる。この手法が最も多く、33州が実施している。

そのため州議会&知事を多数党としておさえている党が有利になるように選挙区割りすることが慣例となっている。自党に有利になるような選挙区割りにすることをゲリマンダ(ゲリマンダリング)という。正直、どちらの党もやっていることだ。

一方で、選挙区割り委員会を設置して区割りを行う州もあり、14州(AK・HI・CA・WA ・ AZ ・ CO ・ ID ・ MO ・ AR ・ OH ・ PA ・ MI ・ MT・NJ)だ。ちなみに選挙区割り委員会は中立で政治家以外で構成される場合もあれば、MO州・OH州のように州議会議員から選出されて構成される場合もある。

また、VA州とNY州は、議会と選挙区割委員会の双方が選挙区割りの権限を共有するハイブリッド方式を採用している。最後の5州(VT・DE・ND・SD・WY)については、下院議員は1名の構成になる。(参照元:Ballotprdia.org

まだ続くゲリマンダ訴訟、GA州とFL州は2026年中間選挙まで持ち越し?

今年、最高裁はAllen v. Milliganの訴訟で、 投票権法が定める投票における人種差別の禁止( 投票権法第2条 )に違反していると判決をだした。この判決をふまえて、AL州は選挙区割りを再度作成する必要があり、7つの選挙区割りのうち、2議席は黒人有権者が多く割り当てられることになった。(過去記事:ALLEN V. MILLIGANの判決解説

AL州の州議会は最高裁判決をふまえて、再度区割りを変更した。しかしながら、黒人の人口が過半数を占める2つめの選挙区を設定しなかったことを受け、連邦下級裁判所は特別調査官に再度選挙区割りの作成を命じ、その中から裁判所が最終的な新地区線を選択するに至った。これは既に民主党議席+1と織り込まれている。

また、GA州も最高裁判決をうけてアトランタ郊外西部に黒人が多数を占める第6選挙区を新設した選挙区割りを12月上旬に発表した。一方で、アトランタ東部郊外の第7区は解体されたため、マイノリティで多数を占める選挙区が解体されることになり、共和党寄り9議席と民主党寄り5議席という現在の勢力図を維持することになった。

これからGA州州議会が立法することになるが、これが可決した時には、不服とした民主党と投票権擁護団体は違法であると主張して訴訟をおこすことになるだろう。とはいえ2024年総選挙には間に合わないのでは…。

訴訟といえば大票田のFL州も上告になり裁判が続くだろう。12月上旬、FL州控訴裁判所は、フロリダ州北部の議会選挙区割りを違憲とした下級裁判所の判決を覆し、2022年にロン・デサンティス知事が強引に推し進めた共和党寄りの選挙区割りを復活させている。

11月末にNC州は州議会が新たな区割りを決定したことで決着がついた。共和党有利な選挙区割りになったことで、NC州1区の民主党議員は接戦となってしまった。民主党は訴訟をおこしたいだろうが、NC州最高裁判所はすでに「党派的なゲリマンダがおきていることは司法は裁くことはできない。それは州議会の役割だ」と2023年4月に判決をだしている。訴訟がうまくいくとすれば、 Allen v. Milliganの判決のように、人種によるゲリマンダが起きていることを証明する必要がでてくるだろう。なかなか難しい。

Allen v. Milliganの訴訟判決をうけて、大票田FL州やスウィングステートのGA州も選挙区割り再編が進むと思いきや2024年総選挙には間に合いそうもない進捗だ。ということになると、現在の選挙区割りで進み、2026年の総選挙で大きく動くのかもしれない。

【参考資料】

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編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2023年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。