世界の覇権はいずれ中国とインドに移るだろうということを拙著『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(さくら舎)で書いた。そこに、ロシアと中東も手を結べば鬼に金棒だ。
なにしろ、世界史のほとんどの期間で実質購買力で計算するならインドが1位、中国が2位だった。そして2016年に中国は米国を上回り、インドは2009年に日本を上回って世界3位になっている。

世界の購買力平価GDP(USドル)ランキング(世界経済のネタ帳を参照)
しかも中国もインドもIT分野における超先進国である。資源にはやや乏しいが、これにロシアと中東が加わったら鬼に金棒だ。
しかし、世界の秩序が自由主義陣営からそちらに移るのは、21世紀の後半のことだろうと思っていた。
とはいえ、中国の債務の罠は危険視され、威圧的な態度や市場経済の軽視は市場経済に比べて不安定とみられてきた。2013年に提唱された一帯一路政策も熱狂的に迎えられたが、2019年あたりをピークに疑問が持たれ始め、そこにコロナ渦による停滞と不信が加わった。
しかし、トランプ大統領の米国ファースト政策は、国際関係において市場経済の長所を自ら否定してしまった。環境政策の後退はある意味で化石燃料の復権につながっていたが、これも今回の戦争でイスラエルのために中東を戦火に巻き込むことで環境派の推奨する非化石燃料の優位性を増した。
アジアとアフリカの多くの国は、コロナ以来、中国への依存が増えることに慎重だったが、イラン紛争勃発以来、パックス・アメリカーナや安倍首相が提唱した「価値観同盟」を信じた国々ではなく、中国の構築するサプライチェーンに頼った国が勝利者となった。
パキスタンは、一帯一路政策で整備された交通網を使って中央アジア経由で大量に中国の太陽光パネルを輸入して、各家庭に普及させた(補助金などなく市場にまかせ中国のダンピング輸出の恩恵を受けただけ)ので困っていない。
自動車も安価な中国製のEVがTOYOTAなどの化石燃料車の高級車を圧倒するようになった。アウトバーンではもう一つなどということはさしあたってどうでもいい。ネタニヤフ首相とトランプ大統領のお陰で中国の自動車が世界の自動車市場の主役となることは確定的になった。HONDAがEVから撤退などというのも早まったのかもしれない。
遺憾だったのは、トランプ大統領がアジアにとっての損得をまったく考慮してくれず、日本人が高市早苗という親米保守派の影響下にある首相を選び、日本とアジアの利益をトランプに主張するどころか間違った政策を全面支持していることだ。
しかも、いまは、石油などの不足に対処するために石油需要を抑制して耐えるべき所を、補助金などで低価格を維持するとともに、需要抑制を呼びかけることを拒否するという、日本のためはともかく、アジア諸国にとって迷惑極まりない政策を展開している。
高市首相がすべきなのは、イスラエルのためにトランプ大統領が何かしたいとしても、それはアジアにとっては悪夢にしかならないことをトランプ大統領にしっかり伝え、米軍基地の使用などは邪魔しないが、それも本当は迷惑なことであることをはっきり言うことだったはずだ。

習近平国家主席(中国共産党新聞)高市首相(首相官邸)とトランプ大統領(ホワイトハウス)
価値観外交は、民主主義、国際法、市場経済などを基調とするものだが、パレスチナ人の権利を蹂躙するイスラエルにも独裁色を深める米国にも中世的な王制を維持する湾岸諸国のどこにも、そして独裁色を深める高市政権にも民主主義の片鱗はないし、国際法をもっとも否定するのもアメリカとイスラエルだ。
トランプ大統領はベネズエラやイラン、そして次にはキューバといった問題を解決し、米国の偉大さを取り戻した大統領として記憶されたかったのだろうが、アジアを中国に明け渡した大統領としてその協力者だった愚かな日本の女性首相とともに歴史に刻まれることになりそうな気配だ。
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コメント
トランプの米国ファースト政策が多国間秩序を揺るがし、一帯一路への相対的な信頼を高めたという構造的指摘には、一定の説得力がある。
しかし「一帯一路の優位が明白」と言い切るのは早計だ。世界銀行も指摘するように、一帯一路は物流改善や成長促進の可能性を持つ一方で、透明性の欠如、債務持続性の問題、汚職リスクという深刻な課題も抱えている。スリランカやザンビアが債務問題で苦境に立たされた現実を等閑視して「中国サプライチェーンに乗った国が勝者」と断じるのは、事実の一面しか捉えていない。中国モデルは無条件に信頼されているのではなく、「便利だが依存は危うい」という警戒も同時に広まっている点を見落とすべきではない。
パキスタンの太陽光普及の事例も、記事が示唆するほど単純ではない。急拡大は事実だが、電力網の財政悪化や、屋根設置が可能な富裕層に恩恵が集中しやすい格差拡大も報じられている。そもそも中国製品の競争力の源泉は、国家ぐるみの補助金と過剰生産によるダンピングだ。市場に任せたと記事は述べるが、これは市場歪曲の結果を「市場の恩恵」と呼び換えているに等しい。安価な中国製品が入れば万事解決という認識は、経済安全保障の観点から見て危うい。
「高市政権が独裁色を深めている」という断言も、根拠が示されておらず論評の域を超えている。また購買力平価GDPで中国の覇権を語ることも、技術規制・資本移動制限・地政学リスクを捨象した粗い議論だ。感情的な断定が随所に混在することで、本来有効な問題提起が説得力を損なっている。
日本が取るべき立場は、対米盲従でも対中傾斜でもなく、現実主義に基づく多角的な経済安全保障戦略だ。日米同盟を堅持しながらも、中東危機がアジア経済に与える打撃は率直に主張する。中国の供給力は活用しつつも過度な依存は避け、エネルギー・輸送・製造の代替ルートを育てる。中国の勝利を既定路線のように語る前に、そのリスクと構造的脆弱性に向き合う冷静な分析こそ、今求められているはずだ。