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AIやDXへの投資は、ここ数年で着実に増えている。生成AIに至っては、多くの企業が競うように導入を進めている。それでも、日本の労働生産性は伸び悩んだままだ。公益財団法人日本生産性本部の国際比較では、時間当たりの労働生産性は主要先進7カ国で最も低い水準が続いている。
投資は増えているのに、成果が見えない。この落差は、どこで生まれているのだろうか。
たしかに、生成AIによって、日々の作業は目に見えて速くなった。では、そこで浮いた時間は、会社の利益に変わっているのだろうか。
AIやITを使えば、作業時間を短縮できる場面は多い。会議の議事録をまとめる。メールの文面を下書きする。資料のたたき台を作る。調査結果を要約する。こうした作業は、生成AIと相性がよい。これまで30分かかっていた仕事が10分で終わり、1時間かかっていた資料作成が半分になる。現場の負担が軽くなること自体は、もちろん悪いことではない。
ただし、ここで見落としてはいけないことがある。「時間が短縮されたこと」と「経営成果が出たこと」は、同じではない。
前回、不要な仕事をAIで効率化しても意味がないと書いた。では、必要な仕事が速くできるようになればよいのか。そこにも、同じだけの注意がいる。

AIで30分短縮できた。資料作成が1時間早くなった。議事録作成が楽になった。こうした話は増えている。しかし、それ自体はまだ経営成果ではない。経営成果とは、売上が増える、粗利が改善する、顧客満足が上がる、失注が減る、教育が早くなる、業務品質が安定する、といった形で会社の結果に表れて初めて言えるものである。
時短は、成果そのものではない。利益を生む活動へ時間を移すための原資にすぎない。問題は、その時間が自然に利益へ変わるわけではないことだ。むしろ、放っておくと簡単に消える。
議事録作成が速くなったのに、会議の数も時間も減っていない。メール返信が速くなったのに、社内確認の往復はむしろ増えている。資料作成が速くなったのに、今度は枚数や修正回数が増えている。調査が速くなったのに、意思決定は相変わらず遅い。
それは、空いた時間が別の会議、追加確認、細かすぎる資料づくり、返信の速さ競争、優先順位の低い雑務に吸収されていくからである。
浮いた時間は、意識して使い道を決めなければ組織の中で自然に消えていく。同じ時短でも、利益に変わるものと、変わりにくいものがある。違いは、空いた時間が次の行動につながっているかどうかだ。
たとえば、見積作成が速くなり、その分だけ提案数が増え、受注率が上がれば、時短はそのまま利益につながる。顧客対応の初動が早くなり、失注や解約が減れば、効果は数字に表れる。営業資料の作成にかけていた時間を商談準備や顧客理解に回せれば、売上に近い活動へ時間を移せている。また、教育コンテンツの整備が進み、新人の立ち上がりが早くなれば、組織全体の生産性にも効いてくる。
逆に、議事録やメールがいくら速くなっても、会議そのものや意思決定のスピードが変わらなければ、効果はそこで止まる。
重要なのは、AIやITで作業を速くすることではない。速くなった後の時間を、どこに振り向けるかである。そのために経営者や管理職が見るべき問いは、「どのAIツールを使うか」だけではない。どの業務の時間を、どれだけ減らすのか。浮いた時間を、どの活動に振り向けるのか。それは売上、粗利、顧客満足、採用、教育、改善のどれにつながるのか。そして、その再配分を誰が決め、誰が実行するのか。
この問いが曖昧なままだと、AI活用は現場の便利ツールで終わってしまう。それにも一定の価値はある。だが、会社として利益を増やしたいのであれば、時短の先にある時間の使い道まで設計しなければならない。
AIで仕事を速くすることは、これからの企業にとって重要な取り組みである。しかし、速くなっただけでは会社は儲からない。経営者が考えるべきなのは、AIを何に使うかだけではなく、AIで生まれた時間をどこに再投資するかである。
AIは時間を生むが、その時間の使い道までは決めてくれない。
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兵藤 迅(ひょうどう はやと)
中小企業の業務改善・DX・AI活用を支援する業務設計コンサルタント。
専門誌『近代中小企業』、『日本プロフェッショナル販売員協会 Cheer Up』等で執筆。







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