龍馬の幕末日記⑬ 少年時代の龍馬と兄弟姉妹たち

2021年01月13日 06:00

Takacchi/写真AC

※編集部より:本稿は、八幡和郎さんの『坂本龍馬の「私の履歴書」 』(SB新書・電子版が入手可能)をもとに、幕末という時代を坂本龍馬が書く「私の履歴書」として振り返る連載です。(過去記事リンクは文末にあります)

ここしばらく私の一生から脱線して、土佐藩のことを書いてきたが、この辺で、私の少年時代や兄弟姉妹について紹介したい。土佐藩の歴史のことは、また、ときどき、紹介していきたい。

龍馬という私の名前は、古代中国で伏義と堯帝の時代に黄河のうちより現れた馬の形をした龍だという怪獣で、すぐれた君主の御代の象徴だとされていたものだ。

もっとも龍と馬とは別々のもので中国の伝説とは関係ないともいうが、私もよく分からない。

いずれにしても、この名には父や母の思いが籠もっていたのだろうし、私もおおいに気にいっていたし、良い名前で得もした。ただし、この龍馬は通称で、直陰(のちに直柔)という諱名もあるのだが、江戸時代にはこうした諱名が普段に使われることは滅多になかったから、私もあまり意識したことはない。

子どもの時の私は、虚弱な鼻垂れ小僧で、10歳を過ぎてもおねしょをし、あまり賢くなさそうな、のろまだったなどといわれている。私自身の記憶では、およそ、利発だとか近在に名をとどろかすガキ大将ではないのはたしかだが、それほど弱虫だったかといわれると、ちょっと誇張があるように思っている。

姉の乙女への手紙に「私も昔のはな垂れ小僧ではない」とか書いたことはあるが、それは、もう子どもでないというだけのことだ。

ただ、勉強は苦手で、少し手習いなどしたのちに、12歳の時に実家から少し北の小高坂村にある楠山庄助先生という漢学者がやっている塾に入門したが、長続きしなかった。上士の子と喧嘩したからだという説明もあるが、勉強が好きならまた別の塾に行って勉強を続けただろう。どうせ余り見込みがないというので、やめてしまったのだ。

私は五人兄弟の末っ子だった。長兄が権平直方で、このとき22歳だった。そのあと、女が三人続いて、それぞれ千鶴(19歳)、栄(正確な年齢は失念した)、乙女(4歳)といった。

長姉の千鶴は高松順蔵という郷士に嫁いだが、その子が海援隊でも活躍し、のちに子がないまま死んだ私の名跡を次いでくれた高松太郎だ。

栄は徒士である柴田作左衛門に嫁いだが、私が11歳だった弘化2年に若死にしていたことが墓石から明らかになり、私の脱藩を助けたことから自殺したなどと言う小説に出てくる話は、根も葉もない嘘だと分かってもらえた。

子がなかったので離縁されて自殺したという話もあるようだが、坂本家に帰って死んだのではなく、柴田家の墓に葬られているから、そんなこともない。だが、私は子供だったので、細かい事情はあまり聞かされず、よく分からない。

乙女は背丈が六尺近くもあった。当時としては長身だった私よりも大きい女で、「仁王さま」などと笑われていた。私と同じように髪の毛が薄かった。性格は豪快そのもので、小さいころから私を鍛えてくれたし、母が死んだあとは親代わりのようなものだった。

こういう姉だから、当時としては晩婚で、私が江戸に遊学に発った安政2年に岡上樹庵という藩医に嫁いで赦太郎という男の子と菊栄という娘を生んだが、まもなく離縁して坂本家に帰ってきた。

活動的な女性で武芸の心得もちょっとはあったが、学問もできたという「竜馬がゆく」の紹介は正しくない。当時の女性の常で、漢字はあまり知らなかったので、私からの手紙でもルビなど振っていた。

どうも作家さんたちは、子供のときの私の駄目さ加減と、乙女姉さんのスーパーレディーぶりを極端なかたちで描きたがるので困る。

*本稿は「戦国大名 県別国盗り物語 我が故郷の武将にもチャンスがあった!?」 (PHP文庫)「本当は間違いばかりの「戦国史の常識」 (SB新書) と「藩史物語1 薩摩・長州・土佐・佐賀――薩長土肥は真の維新の立役者」より

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評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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