IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる

杉山 大志

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

Tomwang112/iStock

前回に続き、以前書いた「IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに」の続報。

過去の気温の再現について、気候モデルは、地表近く(2m)では観測値との一致は割と良いが、上空1万メートル程度までの大気(対流圏と呼ぶ)を見ると、一致が悪い。

このことは以前から指摘されていたが、今回、改めて確認された。

図は、モデル計算(赤)と複数の観測値(黒)を比較したもの。(青は海面温度を固定したモデル計算だが本稿では説明を割愛する)。

  • 時間は1979年から2014年で、左からその全期間a)、前半b)、後半c)である。
  • 図の横軸は気温上昇の速度で、10年当たり℃で示している。
  • 縦軸は高度であるが、気象学の慣例に従って、気圧で高度を示している。地上が1013hPa(ヘクトパスカル)、標高1500メートルが850hPa、標高8850メートルのエベレストが300hPaである。
  • 対象としている地域は熱帯(北緯20度から南緯20度まで)である。

さてモデル計算(赤)は観測値(黒)よりも明らかに右側に外れている箇所がいくつもある。とくにa)とc)には多い。これはモデルのクセであることをIPCC報告も(あまり気が進まなさそうではあるが)認めている。

そしてこの差はかなり大きい。a)とc)ではモデル計算と観測値の差が0.3かそれ以上ある箇所がある。10年あたり0.3℃だから、100年あたりだと3℃ということになる。

過去の地球温暖化が1℃で、今後1.5℃か2℃の温暖化を議論しようというときに、これだけモデルと観測に差がある訳だ。

なお以上は熱帯についてだけの図であったが、同様なモデルにおける対流圏の「加熱」は地球全体に及んでいることも指摘されている

IPCC報告は、一方ではモデルにこれだけ問題があることを認めながら、他方ではそのモデルによる予測を滔々と説明している。だがこの予測は信頼に値するのだろうか?

モデルにこれだけ問題があれば、本来なら、予測結果はいったん取り下げて、やり直すべきではないか? 衛星観測の第一人者である元NASAのジョン・クリスティはそう主張している。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

次回:「IPCC報告の論点⑬」に続く

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