IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
前回の論点㉒に続いて「政策決定者向け要約」を読む。
冒頭にある図がこれだ(訳は気象庁)。
過去2000年にわたる地球の平均気温が書いてあって、最近になって前例の無い気温まで急激に上がった、となっている。
この図の「復元値」を見ると(「観測値」とだぶっていて見にくいが)、過去に比べて、1850年から2000年にかけて急激に気温が上昇した、となっている。
この「復元値」とは、発掘されたサンプルから気温を計算したものだ。例えば木の年輪の幅を読んで、幅が広い年は気温が高かった、などと推計する。
実はこれとほぼ同じ曲線が2000年のIPCC第3次報告で掲載された。だがこの復元値の推計方法に問題ありとして大いに批判され(具体的な批判の内容は伊藤公紀先生がまとめている)、2013年のIPCC第5次報告ではこの曲線は消滅していた(筆者による解説)。
それが今回の2021年第6次報告で復活した訳だ。
いったい何が起きたのか、2000年の報告以来この問題に関わっているステファン・マッキンタイアが分析を続けている。
結論は、限りなくクロに近いようだ。
例えばIPCCの元論文では木の年輪に基づいてパキスタンのある地点における気温をこう「再現」している。
横軸は西暦で、縦軸は気温。1950年ごろから急上昇しているように見える。
ところがこの「再現値」の元になったデータを見るとこうだ。
横軸は西暦、縦軸は年輪の幅であり、上から6つの木が並んでいて、左右2つずつあるのは同じ木から2つずつサンプルを取ったものだ。
ちなみに右肩下がりになっているのは樹齢が上がると成長が遅くなるからで、気温の低下とは直結しない。
それにしても、このデータを、どう加工したら、図2になるというのか? 有り得ない、とマッキンタイアは批判する。
マッキンタイアは、他にも、サンゴやプランクトンなど様々なサンプルに基づく世界各地の気温の再現値について、IPCC報告の批判的な検証を続けている。驚くことに、これがことごとくアウトのようだ。
ということで、今回のIPCC報告、残念ながら報告書の一番初めの図でもうコケている。
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1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点㉔」に続く
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