前回の論考では、月額3,000円の持ち家手当では市内居住は促進されないという結論を、他市の事例をもとに説明しました。
(前回:佐倉市職員の「持ち家手当」復活条例とその周辺の課題⑥)
他方、今後本案を模倣する市町村が生じないよう、「そもそも効果がない」ことを置いたとしても「市内在住職員への持ち家手当」がいかに筋の悪い手当であるかを確認していきます。
「そもそも効果がない」ことを置いても筋の悪い手当
佐倉市が掲げている「災害時に職員が素早く集まれるようにするための条例改正」という目的に戻ってみましょう。「災害時に職員が素早く集まれる」という理屈であるならば、「市内在住職員への持ち家手当」は相当に的を外しています。
どの市町村でも同様ですが、被災現場の位置によっては、「市外に住む職員」の方が、「市内に住む職員」より早く被災現場に駆けつけることができることは多々あります。
現場参集という観点でいえば、「参集のしやすさ」は、現場までの物理的距離、川や崖地の有無といった地勢、道路等交通網の整備状況によって測られるものであり、「市内か市外か」という単純なものさしでは測り得ないからです。
「災害現場への早期参集」を起点とした場合の論点は「市内か市外か」ではなく、災害発生時に早期参集できない場所に住む職員をどう取り扱うかという点です。
また、市内に持ち家を持つ職員のうち約15%の職員が課長、部長級の職員です。彼らには、その職責を全うするために「管理職手当」が支給されています。
さて、我が国には災害対策基本法があり、災害時には地方公務員がその対応にあたるよう規定されています。部長、課長級職員には、災害時にはマネジメント側で指揮を執る役割が求められますが、「管理職手当」は、当然に災害対応も予定して支給されています。
この条例案の目的を「災害時の早期参集のため」と説明をするならば、今後、管理職の立場にある者は、「管理職手当と持ち家手当」という「手当の二重取り」をすることになります。
次に、常任委員会の審議では、先の記事で登場したさくら会の敷根議員が、副次的な効果として市内在住職員の増加による税収アップや経済効果を挙げていましたので、その点についてみていきましょう。
執行部が絶対に「税収アップ」を目的としない理由
確かに、市外に住む市職員が市内に住むようになれば、市民税等の税収はその分増加します。「税収の増加額が手当の総額を上回るからいいじゃないか」という理屈は、一見もっともらしく見えますが、執行部としては絶対にこれを目的として設定できません。
その理由は、住民税や固定資産税等の市税は、佐倉市から受ける「行政サービスの対価」だからです。
つまり、あなたも私も、また、市職員もが納めているそれらの税金は、その地域に住む住民が広く共同して負担し合うべき「地域社会の会費」なのです。
「市内在住職員への持ち家手当」の目的を「税収アップ」とすることは、「地域社会の会費」を支払っている市民のうち、「佐倉市で持ち家に住む佐倉市職員」だけを対象に、その会費(=税金)を年間36,000円キックバックするキャンペーンを実施することになるのです。
もし、年間36,000円の補助により市内在住者が増え、結果的に税収が増えるのだから「それでよし」とするであれば、それは市職員に限る必要はなく、誰であっても対象となるキャンペーンとすべきでしょう(それはそれで佐倉市による「独自減税」となるため問題があるのですが)。
「いや、市職員は災害対応があるから」という理屈なら、災害対応に対する手当を厚くするのが筋ですし、そもそも先に述べた通り対象が的外れであるため、屁理屈としても通りません。ちなみに、佐倉市が過去経験した最大の災害である東日本大震災でも、職員の災害出動手当の合計は431,500円であり、過去5年間の合計でみても、災害出動手当の発生は2019年の台風等2回のみで、その合計は35,500円です。私としては、この災害出動手当の設定こそが問題と考えます。
以上から、敷根議員が「持ち家手当」の審議で「税収アップ」の話題を持ち出したとき、議員なら誰もが知っているべき市税=「地域社会の会費」という前提がどのように整理されるのかを興味深く傍聴しておりましたが、その点についての発言は一切ありませんでした。「副次的効果」という逃げ道を設定したとしても、「そのような効果が見込まれる」といった瞬間、それは「本案の目的」として解釈されます。等しく市税を納める市民に対してそのような説明をするのは、厳に慎むべきでしょう。
次回も引き続き、執行部が挙げた目的の問題点を見ていきます。
(次回につづく)
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