世界三大宗教と言えばキリスト教、イスラム教、仏教だと思っている人が多いが、実はヒンドゥー教が信者数では仏教を上回っている。

Nikada/iStock
『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(さくら舎)では、インドの宗教についても論じている。ヒンドゥー教はほかの宗教とあまり争わないので、欧米でも好意的に見られている。

英国のスナク前首相、米国ではハリス元副大統領の母親がそうで、ハリスの名のカマラは蓮の花である。つまり蓮舫さんだ。バンス副大統領の夫人やハリス副大統領の母親もヒンドゥー教徒である。
インドだけの宗教のように見られがちだが、ネパール80.6%、モーリシャス48.4%、ガイアナ23.3%、ブータン22.5%、トリニダード・トバゴ22.3%など、広範囲に広がっている。
インドには非常に多くの宗教があるように思われがちだが、宗教別人口と全国比(2011年国勢調査)は、ヒンドゥー教79.8%、イスラーム教14.2%、キリスト教2.3%、シク教1.72%、仏教0.7%、ジャイナ教0.37%であり、約99.4%がこの6宗教に属している。無宗教者は0.24%と非常に少ない。
シク教はパンジャーブ州でのみ多数派である。16世紀初頭にパンジャーブ地方でグル・ナーナクが創始した宗教で、ヒンドゥー教とイスラームの折衷であり、「唯一神への信仰」「平等主義」「勤労と奉仕」を掲げ、偶像崇拝やカースト差別を否定している。男性信者はターバンを巻き、アムリトサルの黄金寺院が聖地である。
ジャイナ教は前6世紀、釈迦と同時代にマハーヴィーラが体系化した宗教である。「徹底した非暴力(アヒンサー)」を最大の徳とし、肉食を禁じる。商業や金融、ダイヤモンド取引に強く、世界的に大きな影響力を持つ。パールシュワナータ山やパーリタナが重要な聖地だ。
また、パールシー教(ゾロアスター教系)は人口はさらに少ないが、ムンバイの経済界で勢力を持ち、指揮者ズービン・メータの実家も信者である。ムンバイにある「火の神殿」は最重要の聖地だ。
仏教が衰え、ヒンドゥー教が盛んになった理由は何だろうか。ひとことで言えば、仏教は高尚すぎて学ぶのが難しく、経済的にも負担が大きかったためである。日本では神仏習合や鎌倉新仏教などにより普及に弾みがついたが、インドではそれがうまくいかず、ヒンドゥー教が復興してしまった。
仏教衰退にはいろいろな要因があるが、生々しい社会的・経済的事情が作用したと考えられる。仏教というのは、寺院・仏像・仏具、教学研究などに費用がかかり、維持が困難になったのである。
社会的には、アショーカ王ですらカースト制度を撤廃できなかったが、仏教はインド社会に根付いたカースト制度を否定していたため、社会から阻害されたのである。政治的には、仏教は王権の神格化ができなかったが、ヒンドゥー教は王をダルマの体現者として正統化した。
仏教は大乗化・密教化により難解化し、在家信仰が軽視され、出家中心となった。
対照的に、日本では仏教は権力と折り合いをつけ、在来宗教も神仏習合で受容的だった。行基以来の民衆布教、鎌倉仏教の多様化が普及を促した。
ただし、江戸時代に身分制度が固定化したとき、檀家制度による権力依存が生じ、仏教本来の精神から逸脱した点は否めず、現在もその影響が残っていると言える。
■
【目次】
第1章 文明の源流と民族奥亡が紡いだ古代ユーラシアの大地図
第2章 大航海、新帝国、革命が形づくった近代ユーラシアの再構築
第3章 ユダヤ・イスラーム・ギリシアの世界が形づくった中東の文明圏
第4章 ロシアとウクライナを形づくった千年の興亡史
第5章 インド文明を形づくった大地・民族・宗教の多層史
第6章 王朝・民族・地政学で読み解く東アジア世界の歴史構造
【関連記事】
- どうして毛沢東は南京でなく北京を首都にしたのか 八幡 和郎
- キエフからモスクワへの遷都から始まるウクライナ紛争 八幡 和郎
- イラン国家の歴史は首都の変遷から理解するとよい:ペルセポリスからテヘランまで 八幡 和郎
- ユダヤ人は古代ユダヤ人の子孫か?日本の皇室は縄文系? 八幡 和郎
- 世界で最も豊かな国を食い物にした英国の植民地支配 八幡 和郎
- グローバルサウスの時代の地政学に日本はどう立ち向かう 八幡 和郎
- 西洋の衰退をユーラシア大陸の地政学で考える 八幡 和郎







コメント