伊佐進一議員訪中団の成果を高く評価する理由

訪中団への批判と実際の評価

各党派の議員からなる訪中団が、北京を訪問し、中国共産党中央対外連絡部(中連部)との意見交換を行った。中連部は海外の団体などとの交流を行う窓口で、外交部との上下関係はない。

当初は、中道改革連合の伊佐進一衆院議員、自民党の橋本岳衆院議員、立憲民主党の小西洋之参院議員、公明党の川村雄大参院議員という4党の構成が想定されたが、小西議員が千葉の水害対応で参加を取りやめ、橋本岳議員は当初から日程の前半だけの参加予定で、結果的に中連部との会談には参加できなかった。

この会談について、保守派の論客からは、「中国の要求を持ち帰るための訪中か」「高市政権の足を引っ張る『議員外交』」「なぜ日本側が北京へ出向くのか」「邦人も救えず、レアアースも動かず。北京まで何をしに行ったのか」といった罵詈雑言が浴びせかけられているが、自民党も含めて主要な与野党の政治家からの批判はないし、外務省など関係者の評価は非常に高い。

伊佐進一議員 中道改革連合HPより

たしかに、劇的な展開はなかったが、もともとそのような目的の訪問ではないし、そんなことを狙ったら、途中でつぶれていただろう。中国外交の機微を知る人間なら、表面に出るような成果は狙わない。また、水面下であったとしても声高に言うものではないのであって、逆にそういう自制心を貫いたところが玄人受けして、非常に高い評価なのだと思う。

団長格の伊佐進一衆議院議員は、東京大学工学部航空宇宙学科から文部科学省に入省。米国留学を経て北京の日本大使館勤務をした本物の知中派であるからこそ、無用な欲張りをしなかったというべきだ。

世界で進む「中国詣で」

そもそも、今の世界では、トランプの大暴れを受けて、ほとんどの国で、国際秩序を攪乱する危険があるのは、中国でなく米国だと考える人の方が多い。米国のポリティコ(Politico)がイギリスの世論調査会社に依頼して、米国、カナダ、イギリス、フランス、ドイツを対象として世論調査を行った結果、同盟国の人々は「トランプよりも習近平が頼りになり、中国の技術の方がアメリカより優れていると思っており、さらに10年後の世界の覇者は中国である」と思っている。

新型コロナの前後は中国への警戒感があったが、いまや、世界の首脳は中国詣でだ。少し前の中国への警戒感、封じ込めなんかどこかへ吹っ飛んでいる。イタリアのメローニは、政権初期に一帯一路からの離脱でもたもたしたが、その後は打って変わったごますり外交で、とくに台湾や人権問題について苦言を呈したりしないのが評価されている。

フランスのマクロン、英国のスターマー、ドイツのメルツは大型の経済代表団とともに訪中した。マクロンはパンダももらって帰ったが、経済については、中国の自動車産業などの対仏投資を陳情し、あわせて優れた中国の技術をヨーロッパに移転してほしいとした。資本進出と技術移転の方向が逆転したのである。

今年はトランプ大統領も訪中したし、9月には習近平主席の国賓訪米が予定されている。カナダのカーニー首相は、HUAWEIの幹部逮捕事件以来の冷たい関係を修復して訪中し、「ここ数カ月の中国との関係強化は、米国より予測可能だ」と言った。日本が中国との関係が悪いことを、世界は歓迎していないし、味方になってくれる国はない。

ともかく、安倍首相が2018年に公式訪問し、2019年に日中韓首脳会談で訪中したのち、首脳の訪中も習近平の訪問もなかったG20参加国はメキシコだけである(オブラドール前大統領の外遊嫌いが原因)という異常さなのである。

結果、日本は米中を軸とした世界外交の舞台から半分降りてしまっているようなものだ。この事態を高市首相も打開しようという意欲はあって、かなり強力に外交工作して、慶州のAPEC首脳会議で習近平と会った。

その場はそれほど悪い雰囲気ではなかったが、その次の日に台湾代表と会談し、そのこと自体は恒例だったが、これまでは対外的に宣伝しなかったのに、自分のSNSに写真付きでUPして習近平のメンツを潰し、ついで、これまで注意深く避けてきた台湾有事発言で日中関係を凍りつかせ、トランプから自制をアドバイスされた。こうなると常識的には、高市在任中の首脳会談開催は難しそうだ。

しかし、日中間には懸案事項は多く、冷えた関係は双方の得にならない。いまや、中国にとって対日経済関係は全体の数パーセントだが、日本にとっては10数パーセントである。我慢比べのコストは圧倒的に日本が不利だが、中国にとっても何もいいことはないので、時の氏神の出現が望まれていた。

議員外交が果たした実務的な役割

そうしたなかで、今回の議員団訪中は、訪中したとか幹部と出会ったという実績作りではなく、実務に精通した者が、正式な外交ルートのような正規の窓口ではないところで、しかも、ほどほどのレベルで忌憚なく2時間も意見交換できたことは素晴らしいことだし、今後の諸問題の解決や、より高いレベルでの交流復活の地ならしになったと思う。

中連部の劉海星部長との会談ではなく、陸慷・中連部副部長が相手だが、陸氏も元外務省報道官、元駐インドネシア大使で、実務レベルのつっこんだ会談の相手としては問題ないし、実際、何往復もの議論ができたと聞いている。

日本側からは、「中国で拘束されている日本人の問題」、「反スパイ法などの運用の透明性」、「レアアース・軍民両用品の対日輸出規制」、「中国軍の東シナ海・南シナ海での活動」、「青年交流、文化交流の再開」、「邦人拘束」、「レアアース等の輸出規制」、「中国軍・海警の活動」などを提起したわけだ。土産がなかったことを批判する人がいるが、そもそも、この会談は招待されて行ったのではないのだから、お土産という発想になじまない。

互いに問題の軽重を語り、懸念の払拭をし、その結果として、時間をかけて結果が出るものであるし、邦人拘束問題については、それが日本企業の中国での活動を萎縮させること、輸出規制については、第三国や中国自身にも悪い影響が出てくることを、経済や技術の実務に精通している伊佐氏から説得的な説明がなされたと理解している。

中国側は11月の深圳で開かれるAPEC首脳会議に向けての準備の一環として検討するのだろうから、そこへ向けて反映されればいいことだ。

11月にどの程度の接触が可能かはなんともいえないが、たとえば、大阪でのG20のときに、安倍首相は文在寅韓国大統領と歓迎の握手を不愉快そうに交わし、立ち話にもほとんど応じなかったが、そういう可能性もある。

私は慶州での出来事と、台湾有事発言を帳消しにするためには、高市首相のなんらかの行動が必要であるとは思う。

伊佐氏が反対論に答えた10の論点

なお、伊佐氏は反対派からの批判に対してYouTubeで回答している。その内容と私の感想を簡単に紹介しておく。

1)高市政権が中国に妥協しない姿勢なのに、勝手に訪中すれば政府の足並みを乱す

(伊佐)政府も大使館ルートなどで対話を試みているが進んでいない。議員外交は政府外交を妨害するものではなく補完するものだ。何もしなければ日本側の損失が拡大する。

(八幡)あらゆる国とのあいだで議員外交は行われており、成果も上げている。とくに現在のように政府同士が建前論でぶつかるときは有効である。北朝鮮とのあいだの金丸訪朝団のように政府の方針と異なる約束をするのは困るが、今回はそういうケースに当たらない。

2)そもそも今、中国との関係を改善する必要があるのか

(伊佐)在留邦人の安全、日本企業の活動、文化・学術・青年交流などにすでに実害が出ている。中国市場から利益を得る日本企業も多く、放置は日本の国益を損ねる。

(八幡)そもそも高市首相が、嫌中ムードに悪乗りして、貿易、産業協力、学術交流、観光などで、最重要の市場における日本の地位低下に危機感をもって対処しないことはあるまじきことだ。

3)日本から北京まで会いに行けば「弱腰」と見られ、舐められるだけ

(伊佐)外交は「嫌いだから会わない」では成り立たない。米中も激しく対立しながら交渉している。会うこと自体が譲歩ではなく、交渉の手段だ。

(八幡)そもそも高市政権が相手を袖にしているのではなく、相手にされていないだけだ。訪問は日本側の申し入れだが、断らなかったことが中国側としても対話のきっかけを求めている証拠である。また、来訪を中国が悪意ある宣伝に使っているわけではない。

4)尖閣、邦人拘束、レアアースなどについて何一つ動かなかった。成果ゼロではないか

(伊佐)政府間の接触が極めて難しい中で、実際に会って日本側の要求を伝え、2時間議論できたこと自体が第一歩。「対面の議論は重要」と中国側にも認めさせた。

(八幡)具体的にお土産を持ち帰ることを目的としていないし、日本側もお土産を用意してもいない。ただ、日本側の言い分や重点の置き方を中国側も参考にするだろうから、実務的にはそれが良い方向に反映される期待はある。

5)中国共産党中央対外連絡部と会うのはおかしい。外交なら中国外務省とやるべきだ

(伊佐)中連部は中国共産党の外国政党・政治家との正式な対外窓口であり、議員外交の相手としてむしろ適切。党国家である中国では中連部は大きな政治的権限を持つ。

(八幡)外交部門同士が対立しているときの脇ルートとして適切。外交部に対して力の弱い部門ではない。高いレベルの会談を行うことを宣伝するメリットは日中双方にとってない。

6)国会議員には外交権限がない。中国に「お伺い」を立てに行っただけではないか

(伊佐)議員外交は各国で普通に行われ、日本と中国でも国交正常化以前から重要な役割を果たしてきた。政府間ルートが機能しない時ほど意味がある。

(八幡)日中国交回復が公明党の議員外交をきっかけにしたことはよく知られている。

7)日本の国益が見えない。中国のために動いているように見える

(伊佐)邦人拘束問題、反スパイ法の透明性、レアアース等の輸出規制、文化・青年交流など、日本側の要求を直接突きつけた。目的は中国へのサービスではなく日本側の損害を減らすことだ。

(八幡)日本側の要求をかなり詳細に突きつけている。その意味で会談が2時間に及んだことは重要な意味を持つ。中国側としても聞く価値があると評価したことを意味する。

8)伊佐氏は元北京大使館勤務で公明党系でもあり、中国に近すぎて厳しいことを言えないのではないか

(伊佐)北京大使館勤務で中国側と交渉した経験があるからこそ、中国の行動原理や本音を理解している。その知識を使って厳しく主張した。会談も予定1時間が2時間になるほど激しいやり取りだった。

(八幡)一般に、相手の意見の理解者が接触することも有益。独裁者国家で迎合するといい気になるということはありうるが、中国はそんな情緒的な国ではない。また、いわゆるチャイナスクールなど中国から忌避されると困る立場にある人間と違って、伊佐氏は中国の理解者ではあるが、中国との関係で食べているという立場ではない。

9)中国に「高市政権が悪い」と宣伝する材料として利用された

(伊佐)中国側はむしろ会談を静かに扱いたがり、公式発表も簡潔だった。大々的な国内宣伝には使っていない。外交では双方が国内向けに自国の立場を説明するのは通常のことだ。

(八幡)高市政権の対中強硬姿勢とその結果はトランプ大統領ですら困り果てて、関係改善をアドバイスしている。そのなかで、国内宣伝を互いにすることではなく、直接対話の有用性を確認しあったことの何が問題なのか。

10)関係改善したいなら中国の政治家を日本に呼べばよい。なぜ日本側から頭を下げて行くのか

(伊佐)現状では中国側は関係改善の必要を強く感じていない。待っていても来ないので、日本の国益のためこちらから動いた。訪中は謝罪や譲歩ではなく、日本の立場を直接伝えるためだ。

(八幡)日本は安倍首相が習近平主席に国賓訪問してもらうことを約束し、向こうからすれば日本側が勝手に棚上げにしている格好だ。向こうとすれば、自分たちから関係改善に動くことはメンツに関わる。日中関係の悪化は日本の独り相撲だ。

それに、私が中国担当課長だった1990年代はじめは、日本のGDPは中国の数倍以上。いまは日本のほうが5分の1強。貿易額などでだいたい5%なのだから、向こうが根を上げて原則を崩してまで関係改善を働きかける動機がない。

中国経済は不振だから日本に擦り寄るのではないかと期待する人がいるが、円と元のレートも円安で推移しており、極端な中国経済悲観論は日本だけのガラパゴス経済論でしかない。

伊佐氏の動画

参考文献


誤解だらけの沖縄と領土問題(増補改訂版)


国家の興亡史からわかる現代地政学

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