バイデン司法省、トランプの軍門に降る

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大統領に返り咲くトランプがバイデン政権による「司法武器化」と断じた訴訟4件、そのうち連邦訴訟2件を指揮したジャック・スミス特別検察官が25日、チュトカン連邦地方裁判所判事に訴訟の取り下げを申し出た。1件は21年1月6日の議事堂襲撃を使嗾したとされるいわゆる「J6」、他はフロリダ州マーアラゴの私邸に機密文書を持ち出していたとされる事件だ。

これら2件を担当するワシントンDCコロンビア特別区のタニヤ・チュトカン連邦地方裁判所判事は、スミスによるワシントンDCにおける「J6」訴訟却下の動議を認めた。同様の動議が提出されたフロリダ州の機密文書訴訟でも、同判事が控訴裁判所判事団の承認を待っていると『Politico』が伝えている

スミスは「J6」について司法省の法律顧問室(OLC)と協議した結果、要旨次のようにコメントした。

慎重に検討した結果、現職大統領に対する連邦政府の起訴および訴追の禁止に関するOLCの過去の見解がこの状況に適用され、その結果、この訴追は被告が就任する前に却下されなければならないと判断した。この禁止は絶対的(categorical)なものであり、起訴された犯罪の重大性、政府の証拠の強さ、あるいは政府が全面的に支持する訴追の正当性に左右されるものではない。

フロリダ州における機密文書事件でも、スミスは同州のアイリーン・キャノン連邦地方判事が「スミスの任命は違憲」として7月に下した起訴棄却の判決を控訴していたが、25日の申し立てでこれを取り下げた。但し、免責特権のないマーアラゴの不動産管理者カルロス・デ・オリベイラとトランプ側近のウォルト・ナウタの訴追は継続するとした。

チュトカン判事は「J6」について、「予断のない(without prejudice)」棄却は「現職大統領に与えられる免責は一時的なもので、退任時に失効するという政府の理解とも一致する」と指摘した。前掲の『politico』も、「without prejudice」なる語は理論的に訴訟が将来再び提起されることを意味するので、司法省が29年1月に訴訟を再開する可能性を残しているとする。

が、筆者にはスミスやチュトカンや『Politico』、延いてはバイデン司法省の姿勢は単なる強がりに見える。なぜなら、機密文書事件ではトランプが、辞退したマット・ゲーツに代えて即座に司法長官に指名した現フロリダ州司法長官のパム・ボンディが2人に対する控訴を取り下げるか、さもなくばトランプが恩赦を与えるからだ。加えて、連邦時効法により5年で時効が成立するという事情もある。

従って「J6」についても、29年1月の2期目の終わりに82歳になっているトランプを、8年前の事件で訴訟することを時の司法省が検討するなどおよそ考えにくい。更に、共和党員でありながらハリスのキャンペーンに加わったリズ・チェイニーが主導した「J6」下院特別委員会の欺瞞性が、進行中の下院監視小委員会で暴かれる可能性が高い。事件の逮捕者もトランプが公言している通り、その大半が恩赦されるだろう。

トランプは早速、前述のチュトカン判事の指摘もものかは、トゥルース・ソーシャルに「これらの事件は私が経験させられた(forced to go through)他のすべての事件と同様に空虚で無法なもの(empty and lawless)であり、決して起こされるべきではなかった」と書き込んだ。

これら連邦訴訟案件と異なり、州レベルの2件の刑事訴追ではトランプの恩赦権限が及ばない。が、これら2件の見通しも検察にとって決して明るくはない。5月に口止め料を訴訟費用でなく選挙費用と見做した陪審員が有罪判決を出したニューヨーク州裁判では、マーチャン判事による量刑言い渡しが無期限延期となっている。

ニューヨーク地区検事アルビン・ブラッグは11月19日、マーチャン判事宛の書簡で延期を求めたが、これはトランプ側の控訴が量刑言い渡しの後でないと出来ないことを見越したものだろう。が、現職大統領を入獄させられないとすれば、5年の時効が来てしまうから、こうした姑息な奸計がいつまでも続けられる訳ではない。

ジョージア州での選挙介入容疑でトランプを起訴したファニ・ウィルス検察官も今月再選を果たした。彼女がトランプ訴追を継続できる可能性はどうだろう。それを阻む要素は2つ、1つは米国憲法の下で保証された迅速な裁判を受ける権利をトランプが主張すること、他は大統領選で彼を圧勝させた77百万有権者の意向だ。これらはニューヨーク州の件でも当て嵌まる。

11月15日の拙稿「兵庫県知事選は『斎藤2.0』」で筆者は、トランプと斎藤元彦氏の事案の相似性、すなわち既得権益に抗ってマスコミに叩かれている点を指摘したが、州レベルのトランプ裁判と兵庫県議による百条委員会が両者の圧勝後も続けられる辺りも似ている。が、共に多くの有権者が既成のメディアに拠らず、YouTubeやXなどのSNSからかなり詳しい情報を得た上での選挙結果だ。尊重されるべきではなかろうか。