前回は、イギリスにおける国旗損壊罪についてご紹介しましたが、イギリスには国旗損壊罪がありません。既に存在している法律を使用して、国旗を侮辱する行為のもっと根源的な部分に関する罪を問うという仕組みになっています。
アメリカでは国旗損壊も「表現の自由」
そして、驚くべきことに、実はアメリカにも連邦レベルでの国旗損壊罪はありません。特に、政治的な意図を持って行われた国旗の損壊は、連邦最高裁判決により憲法修正第1条(表現の自由)によって保護されるとされているからです。
実は、州のレベルでは国旗の損壊を禁止する法律があり、罰則もあるのですが、実質的に運用が難しくなっています。そして、連邦レベルでは、国旗の損壊そのものを禁止する法律がないのです。
1989年にテキサス州でジョンソンさんというアメリカ人が政治的抗議として星条旗を損壊して有罪になった判例があるのですが、連邦最高裁判所は、これは表現の自由であるとしました。1990年に国旗損壊罪を連邦レベルで有罪にする動きもあったのですが、最高裁では否定されています。
これがアメリカの非常に面白いところです。私もアメリカに留学していたので何度も目撃しているのですが、普段の生活ではアメリカ人は国旗に対して大変な敬意を払っており、小学校では国旗に対して敬礼したり、誓いをしたりするというのが当たり前です。しかし、表現の自由の方を優先するというのがアメリカ社会なのです。
つまり、アメリカとしては、国の象徴として使われている国旗自体を損壊することよりも、国民が自由に発言し、意見を表明することの方が重要度が高いと考えているわけです。
私が『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズで解説しているように、アメリカのお国柄は、実はある意味で特殊です。
確かに欧州と比べますと、アメリカの方が発言の自由をはるかに尊重していると思うことが多いです。例えば、欧州であればおそらく規制されているネットの動画での政治的な意見の送信や、様々な過激なデモ活動などは、アメリカでは許容されています。普段の発言でも、実はアメリカの方が割と自由にものを言います。

Ward DeWitt/iStock
欧州大陸では国旗損壊に厳しい
国旗損壊に対して意外と厳しいのが欧州大陸です。ここでも、国旗損壊罪が存在しないイギリスとのお国柄の違いが現れています。
フランスの場合は、刑法典433-5-1条では、公的機関が主催または規制するデモにおいて、国歌や三色旗(国旗)を公然と侮辱した行為は、7,500ユーロの罰金が科されるとされています。会議中に行われた場合、懲役6か月と7,500ユーロの罰金です。
イタリアの場合は、罰金が1,000ユーロから10,000ユーロです。
ドイツの場合は、連邦共和国の色・国旗・紋章・国歌を侮辱した者は、3年以下の禁錮または罰金に処されます。
ただし、これら欧州大陸の国も表現の自由を重要視していますから、実際に罰が適用されるかどうかは時と場合による上、実際は罪に問われることは多くはないようです。
発展途上国や独裁国では厳罰も
そして、他の国はどうなっているかというと、実は意外と国旗損壊罪がある国が多いのです。特に発展途上国や独裁国は、非常に厳しい罰が存在しています。
インドは最高で懲役3年で、国旗だけではなく、国歌を侮辱することも禁止されています。ロシア・韓国・タイ・台湾・カザフスタン・メキシコは、国旗損壊そのものを明確な刑事罰の対象としています。
また、ロシアとタイでは、軍の信用失墜罪、不敬罪などがかなり強烈に運用されていて、広範な「国家批判の抑制」の一部として国旗損壊罪があります。
日本の罰則は比較的軽い
このように見ますと、日本の今回の決定は、罰則の重さからして最も近いのがイタリアだということがわかりますね。
しかし、罰金20万円ですから、意外と軽めで、象徴的な法律のように思われます。ロシアやタイの国家批判の枠組みとは違う印象を受けます。欧州大陸のように、実際は適用される例は少ないのではないでしょうか。
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