スター・ウォーズシリーズの新作映画である「マンダロリアン・アンド・グローグー」が、ここ最近は洋画がかなり不調だった日本でも大ヒットしています。
私の著書「世界のニュースを日本人は何も知らない」シリーズでも取り上げてきましたが、この映画は日本のコンテンツ力の強さを再認識させる作品でもあります。
この映画をまだ見ていない方に一言で説明すると、スター・ウォーズ版の「銀河子連れ狼」です。
Disney+のドラマで既に人気のシリーズです。
この作品はここ最近のスター・ウォーズの映画版に比べ、勧善懲悪と冒険活劇を中心とした娯楽作品に仕上がっています。
私はエピソード7〜9の酷さにがっかりしたので、実は見る前はあまり期待していませんでしたが、それは大きな間違いでした。
古いスター・ウォーズファンも満足させるマニアックなネタが山盛りの一方で、スター・ウォーズを初めて見る方々、SF映画に興味がない方々にも楽しめる内容になっており、大満足でした。ストーリーがある程度単純なのも、最近の悲惨な事件から逃避するのに最高です。
スター・ウォーズはもう終わりだと思い込んでいた私と家人でさえグッズを山盛りに買ってしまいました。スター・ウォーズには一言あり、実に細かい部分まで調べ尽くしており、ほぼ毎日ゲーム版をプレイし、小説版まで読み込んでいる我が家の小学校6年生の息子も大満足です。
しかしこの映画はアメリカの作品とはいえ、実は日本にとって様々なヒントがあります。
この作品は日本の「子連れ狼」と「座頭市」にかなり影響を受けています。作品のキャラ設定やプロットは萬屋錦之介版の子連れ狼そのもの。

主人公である孤独な賞金稼ぎのディン・ジャリンは、錦之介+三船敏郎+クリント・イーストウッドで、マカロニ・ウェスタンのニヒルなアンチヒーローです。価値観はアメリカの典型的なヒーロー映画とは大違いで、善悪の白黒を付けられない部分もあり、アメリカン・ニューシネマ的でもあります。
殺陣に関しては子連れ狼というよりも、どちらかというと「長七郎江戸日記」のロングショットの殺陣のオマージュのような感じもしますが、いずれにしろアメリカのスタッフが日本の時代劇を相当見ているのがよくわかります。明らかにスター・ウォーズの旧三部作よりも殺陣にキレがあるのです。

長七郎江戸日記
ハリウッドが日本の時代劇や映画、アニメ、漫画を参考にして作品を作っていることは昔からよく知られているわけですが、ディズニーがスター・ウォーズの命運をかけた作品が、今では日本人が見向きもしないような時代劇をネタにしているということは、日本人は意識するべきだと思います。
つまりそれだけ日本のかつての作品にはプロットやキャラクターの面白さがあふれているということです。日本人は日本に眠る様々な文化的な資産に目を向けず、すっかり忘れてしまっているのです。
ちなみに「子連れ狼」と「座頭市」は、北米と欧州の方がDVDははるかに入手しやすいですし、豪華版も出ています。ストリーミングでも見やすいです。それが最近の話ではなく、結構前からなのです。かなり映画好きの人だと見ていることが多いです。日本では映画が好きだという人でも全く見ていません。実にもったいないことだと思います。

さらに、準主人公キャラである赤ちゃんヨーダの「グローグ」は、どう考えてもポケモンや「ちいかわ」など日本の可愛いキャラに相当な影響を受けています。あの声の出し方とか動作はどう考えても……。
しかし実は割と最近までは、ハリウッド映画には日本的な可愛さを持ったキャラというのはほとんど登場しなかったのです。ちょっと小さくて可愛いキャラが出てきても、自我が強くて自立していることが多く、赤ん坊的な無垢な可愛さというのはあまりありませんでした。だいたいハリウッドは赤ん坊キャラさえ生意気でおっさんのようなのです。
しかも「グローグー」はちょっとドジなのです。しかし無力でドジで未熟な赤子が一生懸命頑張って、主人公である孤独な賞金稼ぎのディン・ジャリンを助け、看病までする。そもそも主人公が病人とか怪我人になっているのがアメリカ的ではない……。
未成熟者が魅力になっているキャラというのは、実は意外とアメリカや欧州の作品にはあまり登場してこなかったのです。未成熟なこと、つまり「ネオテニー」がキャラクターの魅力になるというのは非常に日本的なのですが、今やそれが他の国でも多くの人の心をつかんでいるのです。
これはおそらく、コロナ禍の最中にネットで日本のアニメにはまった人がかなりいたということと関係があると思います。
つまりコロナという自然の脅威に対して自分たちの無力さを体験した人々は、人間の限界を実感したのです。
実際に北米と欧州に住むとわかるのですが、これらの地は日本に比べると自然災害にさらされることは極めて少ない。少ないからこそ「人間中心主義」のキリスト教的価値観になるのだなあと、ぼんやりと考えさせられます。
コロナ禍は多くの人、特に若い人にとっては初めて遭遇する自然の脅威でした。日本よりもはるかに激しいロックダウンで店舗やイベント、学校、職場は閉鎖、経済は止まり、倒産に解雇、食料が枯渇する恐怖、親族やご近所、友達が次々に重症化したり死んでいきました。日本より死者がはるかに多かった上、病院は治療もしないで放り出していたのです。日本に比べたら機器も人員も足りませんでしたから。私も現地で恐怖の中で生き延びました。
日本の作品に登場するキャラは決して万能なヒーローではありません。自分の弱さをさらけ出し、未熟な中でも何とか工夫し、自然の脅威や世界の破滅に立ち向かい、仲間と共に徐々に成長していきます。その姿がコロナ禍で苦悩する人々の心をつかんだのです。
だから「グローグー」のような無力だが小さな人が、仲間たちと一緒に悪と戦うキャラクターが受けているのです。筋肉隆々のスーパーヒーローでもなく、心に闇を抱えたチー牛でもなく、小さき人々が力を合わせて戦っていく。
そして、血のつながらぬ「父」ディン・ジャリンと「子」グローグーは、いつでも一緒。これまでのアメリカの作品だと、息子は父を乗り越えるものというテーマが多かったのですが、今の観客は絆でつながれ、お互いに協力し合う父と子を受け入れるのです。この親子関係はまさに日本的であり、親子が対立関係になりがちな北米や欧州とは全く異なっています。
他の先進国の価値観がついに日本寄りになってきたという象徴的なことです。そしてそれに気がついていないのは当の日本人です。
日本人の感覚は世界にも広く通じ、そして日本人が作り出した物語やキャラクターに共感する人々が世界には多くいるということを知りましょう。
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