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前稿に引き続き、木造家屋に対する規制緩和による弊害を論じる。
火元になり煙害発生源でもある薪ストーブ
前稿①では主に防火面のリスクに対し専門家ではなく一般人の感覚(素朴な疑問と恐怖心)からの意見を述べた。
2009年の告示以前は防火地域および準防火地域でのログハウス等の木造建築が厳しく制限され、木造家屋での火気使用室に関する基準も厳しく設定されていたが、それを(業界の燃焼試験結果を根拠に)国土交通省が大緩和したことで住宅地に薪ストーブ付きログハウスが無為に増殖してしまったのが実態である。
しかし、このこっそり改悪された国土交通省告示(要旨)の問題点は火災リスク上昇だけではなかった。ログハウスや古民家リノベーション物件にはその手の界隈の馬鹿の一つ覚えのように薪ストーブがセットになっている傾向が顕著である。
実際、ログハウスが建てば庭に可燃物たる薪の山、煙突が付いているという例を頻繁に見かけるし住宅メーカー・工務店・造園業者(産廃たる廃棄木材を薪として処分する為)が思慮もなく「乾燥薪で大丈夫」と住宅地に安易に薪ストーブ設置を勧める例も実際に増えている。
煙突の数メートル以内に隣家があり、煙突から隣家の窓に煙が直撃という、平成令和時代では常識と良識を疑うモラルの片鱗も無いような施工がされている、合法だが道義的に悪質極まりない事例(施主も施工者も反社会的の誹りを受けてもやむを得ない)も増加しているようである。
苦情の撃退手段として定番の「炭素中立・SDGs」「乾燥薪で完全燃焼」「完全合法」などに加え、最近では誰が入れ知恵したのか「個人の財産権」という大変便利な言葉も重宝悪用されているらしく、更には隣人の苦境を知りながらその煙で半殺しにするといった合法加害が実行され健康被害まで発生しているにも拘らず、単なる臭気問題に矮小化するような言説を薪ストーブ関連業界がメディアを通じて流布しており行政府もこれに追随しているが、これについては別途考察する。
最も重大な問題点は、我々一般国民がそれを全く知らぬ間に、国民の安全と健康を奪うことが容易に予見できるであろう酷い改悪告示が出されてしまった事である。
後先を考えずに安易に業界の恣意的な求めに応じて規制緩和(それが可能なことが疑問ではある)、そこから生じた諸問題に対して、国土交通省も業界・薪ストーブ関連業界の誰も具体的責任を負っていないのが現状である。
規制緩和以降の木造家屋に薪ストーブや暖炉等の固形燃料使用の開放型燃焼器具を装備した場合は火災リスクを上昇させると共に、薪ストーブが煤煙を大量に発生させる可能性が高いのは普通の教育を受けてきた子供でも分かることのはずだ。
そのような家屋に対しては強制保険で類焼賠償を行う仕組みと、大気汚染関連法の再整備によって煤煙発生源としての責任の所在を明確にし、そもそも設置と使用の厳しい制限若しくは排気浄化装置による対処を(既設置器具にも普く遡及させないと無意味である)義務付ける、他者への煤煙被害に対する賠償責任を明確にさせる仕組みもセットで実施すべきであった。
西欧諸国の時流やSDGsに逆らってまで国策でバイオマスの家庭燃焼を(個人の特殊な趣味的財産の取得に対し税金を原資に補助金まで出すというその矛盾点を指摘しておく)推奨するなら、そこから生じるデメリットについても、この対策を全く実施してこなかった怠慢、元来違法行為だったものを業界の求めに応じて合法化してしまった責任を関係諸官庁に対し強く問うておく。
所管官庁である国土交通省と、大気汚染に関し所管する環境省はその国民に対する重い責任を一切放棄している上に対処を逃げ、「たらいまわし」を繰り返すという無責任ぶりが被害者たちを追い込んで困惑させている現状を認識すべきである。
参考、農林水産省の庁舎の1階には一体何が、誰によって設置されているのかは敢えてここでは指摘しないので、各位で調べられると大変に興味深い物体を発見できると思う。その写真のどこかに回答が見えているのだが下手人捜しは諸氏に任せたい。
そしてこの告示にぶら下がって、利益を甘受しながら現在まで全くその「狭域大気汚染源の設置とそれに伴う近隣住民への加害行為」に対する責を全く果たすことなく回避し続け、果ては「問題は発生していない」と言い、「炭素中立、エコ、人と環境に優しい」の定量化根拠提示も一切なく日々煤煙大気汚染発生装置を販売設置する薪ストーブ業界関係者の「つくる責任、つかう責任」を蔑ろにした社会的無責任と非人道ぶりを強く指弾する。
薪ストーブ関連業界は、被害者たちの悲痛な声も一切聞かずに自らの利潤追求のために炭素中立を悪用し使用者をして隣人加害を実行してまで、それだけ身勝手で酷いことをしてきたのではないか。
筆者は業界団体の出す薪ストーブ販売台数から推察して潜在的被害者(自覚なし、諦めて沈黙等も含め)数を、およそ数千から数万人ではないかと見積もっているが、その声なき怒りが聞こえないのだろうか。
薪ストーブ関連業界も関連行政府も、この薪ストーブ振興政策が住環境で既に解決されたはずの局地的大気汚染が再び復活することに繋がるとは考えが及ばなかったのであれば誠に見識が浅いというほかは無い。足尾銅山による公害にはじまる近代の公害史をなぜ学んで政策に生かそうとしないのか。
最も罪深く悪質なのはブームに乗せられただけの使用者(彼らも自覚無き被害者だという経済的側面もある)よりも、自らの利益だけしか考えず欧州で禁止された違法行為のグリーンウォッシュビジネスを展開し続ける日本の薪ストーブ関連業界(と国土交通省、農林水産省)であることを指摘しておく。
乱筆乱文であったが、このような住宅地の事情があることから、ローンを組んで注文住宅など「持ち家」を選択することはお勧めしない。
後から薪ストーブハウスが近隣にできたら「ジ・エンド」である。
ローンの返済に苦しみながら、他人の吐き出す煤煙にも苦しむことになる。
現状でのベストな住居選択は賃貸であろう。万一の時は逃げることが可能である。
改悪告示の撤廃を
色々と指摘をしたが、考えうる最も簡単な解決方法は「規制を以前の状態に戻す」ことである。
そうなれば各地の薪ストーブ家屋や事業所を一気に違法建築物化することで防火面と煙害面での解決ができ、近隣住民たちから花束を贈られるほど大歓迎されることこの上ない。
ただ一気に違法建築物化をするのは若干忍びないと思うので、火元となりかつ煤煙発生源の薪ストーブを撤去若しくは使用停止(インテリアグッズ化)とすることで一挙にオシャレな合法建築物に早変わりすることが可能ではないかと思われる。
火焔を眺めたいのであれば代替に小型の密閉型バイオエタノール暖炉(本当に煤煙悪臭は出ない)でも設置すれば良いのではなかろうか。バイオエタノール燃料は比較的高価だが、費用対効果を無視して環境問題にコミットしたい意識高い系の諸氏にとっては次世代の環境対策としては最もお勧めだと筆者は思う。
さて、
筆者は、この国土交通省告示の撤廃を強く要求する。
この告示はあらゆる面で害悪の要素が大きすぎる。
業界の身勝手な声を聞き入れて法律を恣意的に変更することの問題を指摘する。
この規制緩和で最も注視すべき点は、このような重大な問題を孕む改悪が一般国民の多くがほぼ知らぬ間に決定され、公布から僅か約1ヶ月の猶予期間をもって施行されてしまったことであろう。
当時の国土交通大臣の責任を強く問い、批判を加えておく。
1か月で施行される程度の軽い告示であるなら逆に、薪ストーブの設置及び使用規制についての法規が成立したなら、他人を半殺しにする程の健康被害の急増を防止する重要な公衆衛生上の意義がある薪ストーブ規制法規は公布即日施行でも良いくらいであろう。
さて、なぜ2009年時点で告示即ち(大改悪と言えるレベルの)規制緩和が「こっそりと」行われたのかについての情報が必要であろうと思うのでそれを示しておきたいと思ったが、事情がどうれあれ住宅地内のログハウス若しくは薪ストーブが現在無敵の合法である限り、現時点でここに筆者がはっきりと明記することは控えておきたい。
法律問題にならぬよう直接に文字化し名指しはしないので、薪ストーブ被害者各位はその検索能力を存分に生かして事実関係・裏事情を各自で調べてみると実に興味深い材料が得られると思うのでそれぞれ頑張って頂きたいものである。
最後にもう一つ付け加えておきたい点がある。
本稿で述べた国土交通省による防火基準の緩和(結果的に住環境に木材燃焼煙を撒き散らす改悪になった)は2009年4月1日施行であったが、有ろうことかその後2009年9月9日に環境省はPM2.5の環境基準を定めている。
何という皮肉、恐ろしい入れ違い政策であろうか。
さて、そろそろ昨年11月に相次いだ薪ストーブ被害者に関する報道等について、苦言を呈する意味で少々書こうとは思っている。
最後に、日本では不都合な事実であるとされ一切報道されない欧州での木材燃焼器具への逆風について事実をここに記しておく。
遂にEUでは2027年に向け木材燃焼暖房器具の禁止について議論が始まっている。
しかし経済水準の低い東欧諸国では反対意見があり、EU全体としての禁止議論は遅れる見込みである。
なお、オランダのユトレヒトでも2030年に木材燃焼暖房の全面禁止を計画している。
類する最新情報はこちら。
編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2025年3月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。