トランプ訪中が台湾に与えた衝撃
トランプ訪中は、台湾の民進党政府をひどく困った状況に追い込んだ。トランプ大統領は台湾について、習近平国家主席が「対応を間違えれば米中が対立し衝突することになる」と厳しく詰め寄ったのに対して、台湾を守る明確な姿勢を示さなかった。

トランプ大統領と習近平国家主席 2026年5月14日米中首脳会談 中国共产党新闻より
のみならず、FOXニュースのインタビューでは、「(台湾の)独立なんかで我々が9,500マイルも移動して戦争するなんてごめんだ。台湾にも中国にも冷静になってもらいたい」と言った。台湾への武器売却について、中国との取引の材料の一つだとして、譲歩の可能性もにおわせた。
その後、トランプ大統領が頼清徳総統と話し合う可能性に言及した。中国は台湾総統と米国大統領の直接対話を歓迎するわけがないし、当然、抗議もしたが、トランプは頼清徳に、中国と上手にやってくれと説得しようということなのだから、内容的には台湾に有利になることはない。
「現状維持」の名の下で進んできた小さな変更
台湾問題については、日米は現状維持と言いつつ、折あらば台湾に有利なように小さな変更を重ねてきた。国際機関のなかで台湾が例外的に参加しているWTOは、天安門事件の後、中国の加盟を認める代わりに台湾の加盟を容認させたものだし、交流の範囲をほんの少しずつ拡大もしている。頼清徳が副総統時代に、安倍元首相の葬儀に参加したなどもその例である。
あるいは、「外国人登録証明書(外国人登録証)」から在留カードに切り替えたときに、それまでは中国(台湾)などと書かれていたのを、地域名として台湾にしたとかである。
こうした台湾の自立に近づけるために、細かい前進を積み重ねようというやり方に、中国は我慢できず攻勢をかけてきたわけである。この背景としては、中国の経済成長で、GDPでいえば、1990年には台湾のGDPは中国の4割くらいあったのが、今は5%くらいになって、対抗勢力とはかけ離れた実態になったからだ。
話し合いが始まれば台湾の独立性は弱まる
これから、中国は平和的な統一に向かって話し合おうという姿勢で来るだろう。そして、話し合えば、現状維持を主張する台湾に対して中国は統一を要求し、結局は現状よりは独立性は失われることになるだろう。
台湾に特殊な地位を与えるという構想
中国と台湾の将来について、私のかねてよりの意見は、台湾に現在の国際法の概念にとらわれない地位を与えて、それを両岸政府と世界各国の参加する協約で保証することだ。
その内容は、たとえば、次のようなものを一つの案として、皆さんの意見を聞きたい。中国の面子と台湾の人々の実利を十分に考慮してある。
- 台湾の地位は、国連や日米比を含む多くの国の参加を得た協約(条約)に基づく特殊なものとする。
- 台湾は国家であることを主張せず、外交関係も持たない。ただし、外国政府と実務協定を結び、外交官に準じた代表処を置くことができる。
- 国際機関については、オブザーバー参加を認められる。
- 国旗・国歌は中華人民共和国のものと、台湾独自のものを同等に扱う(欧州旗と各国の国旗との関係)。ただし、旧来の中華民国のものは使用しない。
- 台湾は治安維持のために、制限された規模の陸海空の兵力を保持できる。
- 中国政府は、協約締結後5年目を最初として、5年ごとに中国への併合を問う住民投票を行うことを要求できる。その内容は、中国政府が決める。この投票で過半数の賛成を得た場合には、その5年後に再確認の投票を行い、連続して賛成が過半数であれば併合される。
日本にとって最も避けるべきは台湾有事である
日本にとって最大の懸念は台湾有事である。ただし、それは台湾が中国に併合されることも有り難くはないが、それとともに、戦闘に沖縄などが巻き込まれることが怖い。台湾の人々にとってもそうだ。それを避けるためにも、上記あたりで手が打てるなら、もっとも結構なことのはずだ。
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コメント
記事の指摘は鋭い。
「日本にとって避けるべきは台湾有事である」という問題意識については同意します。
しかしながら、その協約案に関しては、反論を展開せざるを得ません。
第一に、記事の中で「現状維持の名の下で進んできた変更」として挙げられている、台湾のWTO加盟や在留カードの表記変更、安倍元首相の葬儀への頼清徳副総統(当時)参列などは、決して中国を挑発する行為ではありません。これらは台湾が戦後に民主化を遂げ、人権と法の支配を重んじる民主主義社会として自立してきた結果であり、国際社会がそれを評価してきたプロセスです。これを「中国の我慢の限界を超えさせた原因」と帰結させる論調は、台湾の人々の自決権やこれまでの民主化への歩みを過小評価しており、主権や民主主義の価値を軽視する危険な視点と言わざるを得ません。そもそも中国の攻勢は台湾側の前進への反発というより、習近平体制が掲げる「中華民族の復興」という国内向けイデオロギーと、国内経済減速から目を逸らすための対外強硬路線という内政要因に強く影響されているのです。台湾が譲歩しても中国の圧力は止まりません。
第二に、台湾が「国家であることを主張せず、外交関係も持たない」と引くことは、事実上の中国による現状変更の追認に他なりません。香港に対する「一国二制度」が「50年間維持される」という英中共同宣言での国際公約が、2020年の国家安全維持法導入によってわずか23年で骨抜きにされ、香港の民主主義と自由が圧殺された事実を我々は目撃したばかりです。どれほど国連や日米比の参加のもとで国際協約を結んだとしても、中国の国内法や「核心的利益」の論理が優先されれば、協約による地位保証など砂上の楼閣に帰す可能性が高い。ロシアのウクライナ侵攻を見ても、国際文書だけで大国の力の行使を止めることは難しいのです。
第三に、「5年ごとに中国政府が内容を決める住民投票を行う」という制度設計です。投票の内容を中国側が一方的に決定できるという条件は、台湾側の主権を侵害し、対等な意思決定を最初から不可能にしています。一方で台湾側には併合を撤回させる仕組みも、独立を選ぶ選択肢も与えられていない。これは「譲歩し合う」という建前とはほど遠く、台湾側の主権的余地を制度的に削り取る仕組みです。各種世論調査で「現状維持」または「独立」を望む台湾人は8割を超え、「統一を望む」層は1割に満たない。2300万人の民意を当事者抜きの「協約」で剥奪することが、日本の国益に資するとは到底思えません。
そして最も重要な点として、この提案が「日本の国益に適う」のかという疑問があります。短期的な戦火を回避するために台湾の独立性を差し出すことは、第一列島線という日本の安全保障上の生命線を中国の勢力圏へと完全に明け渡すことを意味します。台湾が実質的に中国の支配下に置かれれば、東シナ海・南シナ海・太平洋への中国海軍の進出は容易になり、シーレーンの安全性は覆る。沖縄は最前線となり、次の有事の舞台は日本本土に近づくのです。
トランプが頼りにならないからこそ、日本は台湾関係法に相当する国内法整備、有事の際の邦人保護・半導体サプライチェーン確保といった具体的準備を進め、欧州(マクロンの「反米中連合」構想など)やインド太平洋諸国との連携を強化すべきです。譲歩ありきの交渉から得られるのは、敗北の体裁を整えた降伏文書に過ぎません。譲歩で平和は買えない――これは20世紀の苦い教訓です。今求められているのは安易な妥協案ではなく、抑止力の構築です。
>その内容は、たとえば、次のようなものを一つの案として、皆さんの意見を聞きたい。
香港の二の舞になりそう。