防災と消防団⑧:改善を阻む地方議員

高橋 富人

これまで、主に「消防団に対する寄付」について考えてきました。

第一稿で概観したとおり、我が国の防災・消防システムの中核的存在である「消防団」は、確かに多くの面で制度疲労をおこしていることは否めません。

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いわく、少子高齢化や価値観の変化に伴う団員確保の課題、社会状況の変化に伴う即応性の低下、新書にもなったいわゆる「幽霊団員問題」、体質の閉鎖性、高齢団員に逆らえない「非民主性問題」、操法大会や出初式の在り方、広報の不在問題など、寄付以外の点についても考えるべき議題は枚挙にいとまがありません。

それらのうちいくつかは、昨今消防庁でも積極的に議論をすすめています。しかし、これまでの論考でみてきた「寄付問題」など、いわゆる「触りづらい」議題に対しては放置される傾向にあります。

消防団は良くも悪くも長い歴史をもつことから、一つ一つの課題がその歴史を背景に複雑にからみあっており、快刀乱麻のごとく「スパっと解決」する方法はありません。

こういう場合は、まずシステムの全体像を把握し、「本来あるべき姿」を見据えたうえで、課題を丁寧に抽出すべきです。そして、それら課題の軽重や解決の難易度、課題同士の関係性などを整理してことにあたる必要があります。ゆがみが残されたまま一部だけが整理されても、既得権益をもった守旧勢力におされて元の状態に戻ってしまうことは、どのような組織でもおきがちな現象です。

その意味で、ここから書く「消防団の改革を阻むもの」に関する構造は、あまねく日本の「傷んだ組織の改革を阻むもの」と、ある程度読み替えることもできるのではないかと思っています。

前回:防災と消防団⑦

課題意識のない地方議員

まずは、消防団ともっとも近い存在である「はずの」地方政治家の問題です。

私は、政治スタンスで政治家個人を「保守」や「革新」といった言葉に押し込めることを好みませんが、特に「保守」と目されている地方政治家にその傾向は顕著であると思います。その意味では、私も「保守」に分類される傾向にあるためなんともいえない気持ちになりますが、そういう議論はひとまずおきます。

ここまでみてきた「消防団の寄付」についても、「課題意識のない議員」は「黙ってこれまで通りにしていればいいんだ」という頑なな姿勢で問題を先送りにし、課題を指摘する者に圧力を加えさえする。

しかし彼らが圧力をかけられるのは、権威にすくんでしまっている消防団員や、議決権を握られて身動きがとれなくなった行政、一部の「子分格の言いなり議員」に対してのみです。

行政とて、法や社会状況を背景とした市民の声が抗えないものになれば、議員の圧力など構っていられません。

さらに、昨今では消防団に対する寄付について、全国の市民が行政に訴訟をおこす事態が頻発しています。そうなったら議員の圧力などなんの効果もありません。

本件を調査する過程で、様々な市町村にお住まいの方々からも多数の情報をいただきましたが、そういった議員の「寄付に対する」振る舞いの一例をご紹介します。

上納金と議員の無策

その地域の消防団は上位から、本部、分団、部によって構成されており、市民からの寄付金はエリアごとに設置されている「部」が集金するシステムです。

部が集めた寄付金は、部の大きさにあわせて分団への上納金が決められている。そこで、年一回、分団に所属する部が一同に集まって、上納金を納める会合があるそうですが、そこに「消防団族議員」が必ず参加するそうです。

部の予算の使い道はある程度透明性が確保されているそうですが、分団に上納される金の使途に関してはまったくのブラックボックスであるそうで、その会合の後にあるコンパニオン付きの宴会について、分団長や議員の費用はそこから出ている可能性もあるとのことでした。

このような会合に参加している議員は、「自分が消防団を守っている」とうそぶき、消防団を票田にしているそうです。

そういった議員は、自分が「自由に使える金」があるうちはいい顔をして足しげく消防団の会合に顔を出し、コンパニオンをあげて酒を飲む。しかし、次の世代に消防団をどうつないでいくか、といった定見は一切持ち合わせていない。

ビジョンがないために、法や理論を用いた批判には答えることができず、結果「付帯条件なしの寄付廃止」の流れをとめることができない。

事態がここまでになってしまった一番の原因は、彼らの無策と、単に権力欲を満たすためにとられた長期間に及ぶ振る舞いであったにもかかわらず、消防団の上層部は「共同正犯」的な立場を握られた気分となっているために、そういう議員の言いなりになってしまっている。

そしてこの構造は、本稿の冒頭で指摘した通り、地方行政の病巣そのものとも言えるのです。

次回:「防災と消防団⑨」へ続く

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