前回の論考では、消防団というシステムの改善を阻害する要因として、一部の地方議会議員の振る舞いをあげました。
(前回:防災と消防団⑧)
今回は、消防団における公金不正の話をします。
本題に入る前に、本件を「自分ごと」として考えていただくための前提を提示します。
あなたはある会社の技術職の社員で、お客様の要望に応じて客先に出かけ、機器の修理をする。その出動当たりの手当を報酬として会社から受け取る仕事をしているとします。
しかし、あなたが所属している部の部長が、部に所属する社員全員の「出動報酬」を回収し、部の宴会費用として使っている。
もしこれがあなたの身に起きたなら、部長の振る舞いは業務上横領ですから、会社に訴えて出動報酬を取り戻すべきですし、それがかなわないなら裁判に訴えるべきでしょう。
驚くべきことに、日本の消防団の多くはこのような横領行為が長年慣習化している状態にあることがわかってきました。
本連載で説明してきた通り、消防団は消防組織法に位置づけられた基礎自治体に紐づく公機関であり、消防団員は非常勤の公務員です。
その意味で、消防団の多くは、「公金横領」が常習化している可能性が高い状態にあるといえます。
それでは、より具体的に状況を確認していきましょう。
消防団員の報酬と千葉県の事例
消防団員に設定されている報酬は、年間報酬、出動手当の他、勤務年数に応じた退職金も設定されており、それらの原資はすべて税金です。また、これらはすべて「団員個人に支払われるべき報酬」であることは論をまちません。
さて、今回の論考に関係する年間報酬と出動手当に的を絞ってお話しすると、国が目安としている金額(地方交付税の算入額として設定されている金額)は、それぞれ
- 年間報酬:36,500円
- 出動手当:7,000円(出動一回につき)
です。
もちろん、上記金額は国が示した目安にすぎず、基礎自治体ごとに金額設定はバラバラなのが現状ですが、とにかくそういった費目が設定されています。
他方、千葉県の担当部に確認したところ、千葉県内の基礎自治体の中で上記報酬がしっかり個人口座に支払われている割合は、
- 年間報酬:58.3%
- 出動手当:45.8%
とのことでした。
「個人の口座」に支払われない自治体での上記報酬の払い込み先は、消防団の分団、ないし部といった下部組織の長の口座である場合が多いようです。ほとんどの市町村では、それらの報酬は一括して分団や部に支払う一方、正しく個人口座に支払われているかの後追い調査は実施していません。
私が本連載を続ける中で、日本全国から様々な情報をいただきました。それらの情報から浮かび上がってきたのは、市町村から消防団の下部組織に支払われたこれらの報酬が、組織の宴会の他、ひどい場合には相当な額を部長が小遣いとして利用している疑いがある、という惨状でした。
上記の千葉県の割合を前提にすれば、そのような横領が行われていることが「疑われる」消防団が約半数にのぼる、という戦慄すべき事態になっているのです。
表層的な正義は防災システムを崩壊させるのか
本件について正義を振りかざし騒ぎすぎると、日本の防災システムを崩壊させる可能性がある、という助言を様々な立場の方からいただきました。
もちろん、私も一定の議決権を持つ政治家ですから、正義と社会秩序のバランスをみて判断することもあります。
しかし、本件は刑法253条に定められた「業務上横領」という犯罪行為の可能性が濃厚であり、私の市の公務員から逮捕者が出る可能性すらある。市議会議員として、放置することは許されないと考えました。また、むしろ本件を放置することのほうが、かえって我が国の防災システムを弱体化させることにつながると考えます。
さらに、この公金不正という悪弊は、本連載の軸となっている「消防団への寄付を阻害する要因」の一つにもなっているという点も指摘できます。
以上から、次回論考ではこの状況を見過ごすことがなぜ「我が国の防災システムの弱体化」につながり、ひいては「消防団への寄付を阻害する」要因となっているのか、という点を明らかにするために、このような行為が慣例化してしまうカラクリについて説明します。
次回:「防災と消防団⑩」へ続く
【関連記事】
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・防災と消防団④:消防団への寄付に関する論点
・防災と消防団⑤:消防団への寄付を存続するための試案
・防災と消防団⑥:消防団への寄付を存続するための試案
・防災と消防団⑦:消防団への寄付に関する法的整理
・防災と消防団⑧:改善を阻む地方議員
・防災と消防団⑨:公金横領の横行
・防災と消防団⑩:公金横領の一類型
・防災と消防団⑪:公金不正と消防団の弱体化
・防災と消防団⑫:公金不正の改善を阻む3つの力
・防災と消防団⑬:地下に潜る横領と逮捕(前編)
・防災と消防団⑭:地下に潜る横領と逮捕(後編)