本連載の第5稿と第6稿では、地域住民から消防団への寄付を可能とする場合の論点の整理をしました。本稿では、「消防団への寄付」を可能とするための法的な整理について検討していきます。
前回:防災と消防団⑥
判例と法律の整理
本件を考えるとき、立ち戻らなければならないのは平成22年の横浜地裁の消防団に対する寄付に言及した判決文です。
この判決文は、「(消防団について)本来業務との関連が疑われる活動につき、市民等から慰労などの趣旨で直接寄付金を受領することは、違法となる余地がある」という内容でした。
現行法では「違法となる余地」があるのだとすれば、その根拠となる法文はなんなのでしょうか?
最も重要な法文は、公務員の単純収賄罪を定めた刑法197条だと考えられます。
「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。」
なお、その他にも、
・地方自治法210条(総計予算主義の原則)
・地方財政法4条の5(割当的寄附金等の禁止)
・地方自治法204条(給与条例主義)
なども検討されているのかもしれません。
裏を返せば、「消防団への寄付」を可能とする立法をする場合、以上の法文は最低限整理や検討が必要なのだと考えます。
議員と消防団員の法的な立場は同じ
これまでの論考で、私は「消防団員は特別職の地方公務員」と書きました。その根拠は、地方公務員法の地方公務員法第3条第3項第5号にそう定義されているからです。ちなみに、同法の第3条第3項第1号には、議員などの政治家も消防団員と同じ「特別職の地方公務員」として定義されています。
一方で、政治家や政治団体に対する寄付は、政治資金規正法によって、収支の公開と授受の規制を前提としたうえで認められています。
とするならば、消防団に対する寄付も、「政治資金規正法」と同じ建付けの法律を整備すれば認められるのではないか、というのが私の考えです。
もちろん、先に説明した既存の法律との兼ね合いを整理することは必須です。特に、「公務員の職務の対価」に、消防団への寄付が該当するのか否か、という点が大きな争点になるのではないでしょうか。
「政治家に許されるなら、法的に同じ立場の消防団にも可能だろう」という私の仮説は、おそらく「政治資金規正法は、なぜ政治家に(限定的にせよ)寄付を許すのか」という法源の話になり、そこの整理がつきさえすれば「法的に可能」ということになるのではないか、と考えますが、浅学につき私が掘り下げられるのはここまでです。
また、これまで述べてきたように、私は消防団に対する寄付を付帯条件なく認めるべきとは思っていません。仮に消防団への寄付が法技術上認められる状態となるとしても、最低限、
- 年間あたりの団員に対する妥当な寄付金の上限の設定
- 寄付に関する任意性確保
- 集めた寄付金の分配方法の整理
- 寄付金の用途の透明性確保
- 消防団の公務外の貢献に対する対価の整理
等をしっかり検討したうえで、消防団を「寄付の禁止」の適用除外とする立法をすることが必要だと考えています。
本来は誰の仕事か
以上、「特別職の公務員たる消防団に対する寄付」が法的にグレーからブラックに近づいている判例の方向性と、消防団に対する国民感情の分断をこれ以上進行させないために、地方政治家としてひとつの方向性を示しました。
他方、特に法的な整理については、本来立法権をもつ国会議員の仕事です。
本件について何度か述べているとおり、政治家が無策に「現状維持」を唱えるだけなら、あと数年で「消防団への寄付」という文化は消滅するでしょう。予言めいてしまいますが、この状況を放置していたら、「消防団への寄付」についてどこかの市区町村に対する決定的な訴訟がおき、「もはや反論の余地なし」という判決がでるでしょう。
もちろん、「寄付は許されない」という立場もありえます。もしそうであるならば、そのように立論して、国民の合意をとりつけ、総務省あるいは消防庁からその趣旨のガイドラインを発出すれば足ります。
いずれにしても、国民の怒りを背景とした訴訟から、「消防団への寄付禁止条例」が全国の市区町村に成立するような事態だけは避けなければなりません。
本来大切にしなければならない消防団に対する国民の意識の分断は、今大きな分岐点を迎えようとしています。
国会議員の奮起を期待します。
次回:「防災と消防団⑧」へ続く
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