論考11では、消防団による公金不正と消防団の弱体化の関係性と、公金不正を正す方策について概観しました。
また、「公金不正を正す方策」とは、関係者に粘り強く説明するという至極シンプルな方法で、「通常は」実現可能であることも、政令市の成功事例をもとに紹介しました。
(前回:防災と消防団⑪)
しかし、全国の半数以上の市町村では、未だ「公金不正の温床」である「団員報酬の部長への一括払い」が横行している。なぜか?
私は、改革が進まない地方都市には、主に以下「3つの斥力」があると考えています。
- 消防団上層部の「慣例踏襲」を是とする反発
- 消防団を利権化する地方議員の圧力
- 市長の無関心
あなたの住む市町村に、仮に公金不正に対して課題意識を持つ市職員がいたとしても、上記の3点がそろっている自治体の場合には、改革は完全に停滞しているはずです。課題意識を強く持つ市職員が高位の役職者であったとしても、議決権を持つ地方議員や、人事権を握る市長が圧力をかけた場合、手も足もでないのが行政という組織です。
それでは、この「3つの斥力」について、もう少し細かくみていきましょう。
1. 消防団上層部の「慣例踏襲」を是とする反発
この点は、もはや説明するまでもないでしょう。団員報酬を宴会予算等に使うという流れを作ったのは、まぎれもなく長く消防団を支えてきた団員の方々ですから、それを改革するとなれば反発するのは心情としては理解できます。消防団の上層部の方々は地元の名士や、地場に根付いた企業の役員等の、いわゆる「有力者」が多いことも特徴の一つです。しかし、この方々は本来善良な市民なので、改革に成功した政令市職員からヒアリングした限りでは、報酬の横領や水増しによる詐欺は法律違反となる旨を根気強く説明すれば理解してくれるはずです。
ここで一番やっかいなのは、このような「前例踏襲」型の有力者が、「市の高位役職者」である場合です。その場合、本来説得にあたるべき行政がボトルネックとなって改革が進まない、ということも十分考えられます。
2. 消防団を利権化する地方議員の圧力
私に寄せられた情報を元にすると、「利権議員」については、全国的に長年消防団に籍を置く年配の地方議員が多い傾向にあるようです。また、そういった議員が議会内で発言力のある立場であればあるほど、改革は遅れることになります。
こういった利権議員は、これまでの議会での経験から「市の方針は自分の思惑が法律を優越する」という驕り高ぶった思い違いをしている場合も多くあるでしょう。このような議員は、自分の圧力の結果仮に市や職員が訴えられても、自分に累が及ばなければ基本的には問題ないと考えているはずです。
3. 市長の無関心
あまねく市の事業の改革が進まないのは、一義的には「首長がその件に着手しないから」というに尽きます。その場合、単に首長が無関心なだけという場合もありえますが、本件については「1.」や「2.」に対する忖度がある場合がほとんどであろうと思います。
市長は選挙の折、あるいは日々の政治活動において、「1.」や「2.」の方々と深い関係を持っています。そんな中、一部の市民や、消防団内部の若手の方々が公金不正に疑問を持ち改革の声をあげたとしても、「1.」や「2.」を気遣って「無関心」を決め込むという構図です。
特に「2.」の「利権議員」は、議会において大きな議決権を握る会派の要職に就いている場合が多いため、市長が改革をしたくても、議決権を背景とした圧力に屈しているケースも多くあるでしょう。その意味で、消防団の改革を進めたければ「そういう議員」を落選させることが近道になりますが、「利権議員」については確たる情報がつかみづらく、一般市民にとっては「誰がそうなのか」がわからない場合もあります。
また、「そういう議員」は、「そういう人たち」から支えられており、市民の大多数から嫌気されていたとしても、票を手堅くおさえている場合が多いようです。いわゆる「利権に支えられた票」は、投票率が低ければ低いほど相対的に力を持ちます。つまり、一般市民が選挙に興味が無ければ無いほど、「そういう議員」を利することになるわけです。
以上から、「これまでは」3つの斥力が消防団における公金不正の改革を阻んできました。
しかし、そのような地方の力学の中、「なんとなく不正が許されていた期間」が、本年4月に終わりを迎えました。
本連載の最終章は、改革に本腰を入れた消防庁と、その結果地下に潜る公金不正について、2022年以降逮捕者が出る未来を予見するショッキングな内容を、前編と後編にわけて書きます。
次回:「防災と消防⑬」へ続く
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