論考9と論考10では、消防団による公金不正が横行している実態を確認してきました。
また、このような不正行為と、その結果発生した業務実態のないいわゆる「幽霊団員」が、日本の消防団の弱体化の原因となっていると論じました。
(前回:防災と消防団⑩)
本稿では、「不正行為が消防団の弱体化につながる理由」を項目ごとに確認するとともに、「不正を解消する方策」について考えていきます。
公金不正と消防団弱体化について
1. 発災時の対応能力の低下
- 活動実態のない団員は火災、災害発生時にも活動しないため、物理的な対応力低下の原因となる
- 消防団の維持に会計不正があることを団員がある程度把握しているために、団の士気が慢性的に低い
2. 新規団員獲得の阻害要因
- 地域防災・消防に関心があり入団した住民が、実態を知り退団(あるいは幽霊化)していく
- 業務実態のない団員が席を占めていることで、新規団員の枠が開かない
3. 消防団に対する行政の「消極的姿勢」
- 自治体としてもある程度「不正の実態」を把握しているが、後述する「利権議員」や、一部地域有力者の圧力に抗しきれないため
- 団員募集の広報を声高にできず、新規団員はほとんど獲得できない
- 消防団の活動を広報することに及び腰になり、結果市民が消防団の活動を知る機会損失につながる
- 会計不正が公になることをおそれ、分団や部の再編成や機能別消防団制度の導入などの重要な改善施策を打てない
4. 予算的な観点
- 不正を隠蔽する必要から、分団や部の予算・決算書を作成できず、結果消防団の組織における金の流れがブラックボックス化する
- そのため、部の収入源である市からの運営補助金、本来団員個人に払われるべき団員報酬、市民からの寄付が混ざり合ってしまい、検証不可能な状態になっている
- ブラックボックス化した予算に目を付けた一部の地方議員の利権の温床となり、結果行政の消防団改革の妨害等、政治的圧力の基礎要因になっている
なお、先の論考で私が指摘した「公金不正が寄付の阻害要因となっている」という点も、上記の「予算的な観点」によります。寄付をする側の市民に対して、消防団として予算消化の説明がつかない状態であるために、本来感謝・信頼されてしかるべき消防団に対する市民の不信感が醸成され、「寄付どころではない」という認識が横溢してしまっている(寄付については、そもそも法的にグレーであるという点は過去論考で指摘した通りですが、私は寄付を「法的にOK」にしたうえで続けるべきという論者であるため、こういう書き方をしています)。
ここまで書くと、9稿で書いたように、「そこに手を入れると消防団が崩壊する」という意見を言う人がでてきますが、まったくそんなことはありません。
東京23区を含む全国21の政令市のほとんどは個人支給変更を完了している
日本に21(東京23区の消防団の方針は同一であるため、まとめて1つの市としてカウント)ある政令市のうち17市は、2008年を境に次々と「分団長口座等に支払われていた団員報酬」を、個人支給に切り替えています。
消防庁にヒアリングしたところ、残りの4市についても近い将来切り替えが完了する見込みとのことです。
「そこに手を入れると消防団が崩壊する」という理屈が正しいとすれば、17市の消防団はすべて崩壊しているはずですが、むしろ一般市より改善が進んでいる自治体がほとんどでした。「政令市は予算がたくさんあるからそういうことができる」と反論されるかもしれませんが、団員報酬を含む部あたりの予算は、政令市と佐倉市ではほとんど違いはみられませんでした。例えば、佐倉市と境を接する千葉市との比較で言えば、団員報酬や部への年間補助金は佐倉市のほうが若干高く設定されているくらいです。
切り替えを完了したいくつかの政令市の担当者にヒアリングしたところ、「確かに、切り替えのタイミングでは消防団からの強い反対はありました」と口をそろえて言いました。しかし、切り替えを完了したすべての政令市において「法的に不適格だと説明をした結果、団長から了解をいただきました」ということでした。
以上から、本稿の冒頭に提示した「不正を解消する方策」は、説得に努力をする必要はありますが、方法はいたってシンプルであることがわかります。単純に「手順を踏んでしっかり取り組めばよい」のです。
次回論考では、この「シンプルな改革」が多くの市町村で遅々として進まない理由を探ります。
次回:「防災と消防⑫」へ続く
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