なぜ戦後に中国は沖縄を併合しなかったのか

昨日は、『沖縄は日中両属だったという誤解を論破する』という記事で、明治までの経緯を書いたが、本日は戦後の経緯を語る。『誤解だらけの沖縄と領土問題』(イースト新書)からの短縮版である。メルマガには全文を載せている。

沖縄は日中両属だったという誤解を論破する
沖縄のことを日中の中間地帯だとか、中国の領土だったと誤解している人がいる。しかし、沖縄の住民は南九州から移住した人々で縄文系の色彩も強く、日本人でいちばん中国人と縁遠い。言語も日本語の方言ないし極めて近い言葉である。また、冊封関係が領土であ...
【週間通信第23回 なぜ戦後に中国は沖縄を併合しなかったのか (詳細版)】
【週間通信第23回 なぜ戦後に中国は沖縄を併合しなかったのか (詳細版)】

戦後、沖縄が27年の米軍統治のあと日本に戻れたのにはいくつかの幸運があった。カイロ会談で沖縄を念頭にアメリカのルーズベルト大統領は、蒋介石に日本への領土要求はないかと打診した。

もちろん、中国政府にも中国領にしようという意見もあったが、蒋介石は態度を明確にしなかった。というのは、独立運動もないし、それ以上に、満州や内外蒙古の独立阻止や台湾返還主張にマイナスだと考えたためである。日本民族の住む沖縄を自分のものにすると、民族自決の旗を自ら降ろすことになってしまうことを心配したのである。

ただし、日本に帰属させるのかと言えば、それは別途話し合いましょうという立場で、信託統治や非武装化も模索していた。

しかし、国民党は共産党に追われて台湾へ移ったので、幸運にもすべてがうやむやになった。そして、サンフランシスコ講和条約でアメリカ軍の施政権下に置かれた。

将来の本土復帰の可能性を残すためには、蒋介石か毛沢東かを問わず、中国の干渉を排除する必要もあった。そういう観点からは、内心忸怩たるものはあるにせよ、アメリカの施政権下に沖縄を置き、アメリカとの二国間交渉で沖縄の地位を変更できるようにしておいたのは、まことに賢明な措置だったといえる。

このことは、昭和天皇が「アメリカ軍による占領は、米国にとっても有益であり、日本にも防護をもたらすことになるだろう」と、米軍が沖縄で駐留を長期間継続することを希望されたと言われることも、肯定的に見るべき根拠でもある。

また、沖縄における軍事基地の権利獲得については、日本と連合国との講和条約の一部とするよりも、日米間の二国間の条約によるべきだという考えを示した。

沖縄県の本土復帰は1972年のことである。初代の知事になったのは沖縄県の教員組合を率いて復帰運動を展開した屋良朝苗である。屋良はその3年半前に行われた初の主席公選で勝利して琉球政府主席をつとめていた。

初の主席公選では、復帰運動の象徴的な存在で広島高等師範出の屋良朝苗(1972~76)が当選した。そのときの対立候補は、旧制水戸高校から東京帝国大学法学部で学び、那覇市長をつとめた西銘順治であった。

西銘は沖縄が自分たちだけでやっていこうというなら貧困を我慢せざるを得ないと、「いも裸足」論を展開し、中央直結での現実的な方針を主張したが、反戦と早期復帰を唱える屋良の勢いの前に3万票差で敗北した。西銘が屋良の教え子であったことで、恩師と争うのかと批判されたことも痛いところであった。

このころの本土復帰問題の状況を見ると、保守系では、いずれは返還すべきだと考えるにせよ早期の返還には経済上の理由から躊躇する人も多かったなかで、沖縄県の教職員組合がもっとも熱心に無条件の復帰を運動し、日の丸掲揚運動を展開していた。

これに対して、北京政府は、米軍基地撤去への期待もあり、日本復帰運動を支持していた。それに対して、台湾の国民政府は日本への返還に際しては、相談してほしいという立場をとり、独立運動への支援を行ったこともある。

そして、1964年に佐藤栄作が首相に就任するが、その翌年に沖縄を訪問して、「沖縄返還なくして戦後は終わらない」と声明した。ベトナム戦争のもとで困難はあったが、1970年の安保改定を乗り切るためには沖縄問題に決着をつけるしかないという意識もあったと思われる。

佐藤栄作首相とリチャード・ニクソン大統領 Wikipediaより

佐藤栄作首相は、交渉に国民政府が異議を唱えないように、1967年に訪台して蒋介石総統に仁義を切った。アメリカの基地を維持することが台湾にとっていちばん重要なのではないかということを説明し、基地維持を条件に返還に異議を唱えないことを求めた。蒋介石は了解はしなかったが、米軍基地が存続するのであればと黙認することにした。

ただし、その後も、「中華民国」は、わざわざ沖縄でなく「琉球」と呼んだりしており、日本の領土であることは認めていない(民進党政権は態度を曖昧にしている)。

一方、最近では中国で、かつての蒋介石の主張に近い形で、沖縄が日本の一部であることに疑問を呈する考え方が台頭しつつある。環境時報などはわりにそういう立場である。

いまのところ中国政府がそういう立場を表明してはいないが、台湾有事についての高市発言のように日本が台湾に干渉したりすれば、それなら沖縄はどうだという考えに火がつくおそれがある。

誤解だらけの沖縄と領土問題』(イースト新書)は、絶版になっている。最近刊の『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(さくら舎)や『365日でわかる日本史』(清談社)でも沖縄の問題を論じている。

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