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これまでの25回では拙著1冊に付き1回の「縁、運、根」であったが、取り上げる『変動のマクロ社会学』(編著、2019)では2篇のやや長い論文を編者である私も書いていて、都合で2回に分けることにする。
まず今回は、そのうちの「第7章 少子化する高齢社会の構造と課題」について、8月31日の『日本のアクティブエイジング』で省略した内容と新しい動向を含めて、高齢化研究の全般についてまとめておく。高齢化への平凡な見方(conventionality)とそれから飛翔した視点(unconventionality)の区別も行いたい。
松本清張
1953年の芥川賞を受賞した44歳の松本清張は、その後途切れることなく同業者の5倍のエネルギーで多彩な作品群を日本人に提供し続けた。56年に作家生活に入ると、ますます多作化が進み、69年にはカッパノベルス版の著書だけで1000万部の快挙が達成された。そしてデビュー後のわずか15年後の71年には、第1期全38巻が全集として文藝春秋から刊行され始めた。
同時に日本推理作家協会会長に就任して、作品のなかだけでなく、実生活においても作家として高度成長時代と向き合うことになった。
清張作品のもつ斬新さ
清張作品のもつ斬新さ(unconventionality)は評論家や同業作家が異口同音に賛成するところであり、もはや通説となっている。それまでの江戸川乱歩の荒唐無稽な探偵ものとは異質であり、横溝正史などのおどろおどろしい土俗的な世界とも無縁な清張作品は、高度成長期の都市に生きる日本の老若男女の精神の糧となりえた。
推理ものだけではなく、歴史もの、官僚もの、時代ものなどほとんどの分野において、清張作品の実生活への密着性、新鮮さ、社会性、犯罪の動機を重視する姿勢、歴史ものの史料眼の確かさなどが、膨大な作品の中で証明されてきた。
団塊世代の私もそれらを愛読してきた一人である。かなり多くの作品を収めた第1期清張全集刊行の頃がちょうど大学生であったが、全集ではなく当時はまだ安価だった文庫による乱読を始めて、40年くらいかけて膨大な作品群と付き合ってきた。長編短編を問わず、繰り返し読んだ作品も多い。
清張の「老い」認識
そして時には気に入った作品の再読三読を通して、自らの研究テーマの一つである「老い」の姿の表現を、清張作品でも探すようになった。
初出雑誌や単行本第1刷の年次ではなく、愛読してきた文庫本による年次を使うと、以下のような清張による「老い」の表現が集まってくる。しかしそこには、小説や評論の斬新さを一生かけて表現した清張とは思えないような紋切り型の「老い」の表現(conventionality)しかないことに驚く。
1.「喪失」『カルネアデスの舟板』角川文庫、1959:108
「頭の真白い老人、・・・・・・実際は五十七八の・・・・・・男」
2.「喪失」『カルネアデスの舟板』角川文庫、1959:16
「善良な老人であったが、六十男のいやらしさ」
3.『点と線』新潮文庫、1971:43
「その実母と名乗る六十歳ばかりの老婆」
4.『蒼い描点』新潮文庫、1972:271
「五十すぎぐらいの、半分は白髪の男」
5.『砂の器』新潮文庫、下、1973:182
「すでに五十を過ぎた老人なのだ」
6.『蒼ざめた礼服』新潮文庫、1973:55
「五十をすぎた年配」
7.『蒼ざめた礼服』新潮文庫、1973:193
「何しろ、西岡さんはもうお年寄りですからね」
・・・・・・「確か、五十八か九だと思います」
8.「史疑」『死の枝』新潮文庫、1974: 73
「今年は五十七のはずだったな。・・・・・・年寄りが死ぬのは仕方がない」
9.「史疑」『死の枝』新潮文庫、1974:100
「名前は宇津原平助といい、もう六十七の老人」
10.「奇妙な被告」エラリークイーン編『日本傑作推理12選 第1集』光文社、1977:49.
「六十二歳になる金貸しの老人」
11.「美の虚像」『憎悪の依頼』新潮文庫、1982:65
「六十くらいの老人が」
12.『塗られた本』講談社文庫、1987:207
「五十八歳・・・・・・初老の男」
13.『赤い氷河期』新潮文庫、1989:199
「六十近いお方じゃ」 老司祭のこと
14.『異変街道』講談社文庫、上、1989:184
「六十ばかりの老爺」、「老人は六十くらいとみえた」
15.『渇いた配色』中公文庫、1991:81
「住職は六十近い年寄りである」
16.「願望」『新装版 増上寺刃傷』講談社文庫、2003:10
「その白銀の筋のような白髪とともに、とんと六十くらいの老婆に見える」
17.「贋札つくり」『新装版 増上寺刃傷』講談社文庫、2003:233
「一心は六十に近い老人だが、」
18.「濁った陽」細谷正充編『断崖』双葉文庫、2005:29
「管理人を訪ねると、六十くらいのおじいさんでしたわ」
19.「途上」『途上』双葉文庫、2006
「七十以上の老人・・・・・・。六十ばかりで円い顔をして・・・・・・この二人の老人と一緒に寝かされた」:40
「その大部分が六十歳を越した老人」:40
「六十歳ばかりを気のいい老爺」:41
「いずれも六十歳以上の老婆であった」:41
20.「信号」『途上』双葉文庫、2006:184
「六十以上の老人にみえた」
清張の「老い」のイメージは60歳前後に固定
図1は日本人の平均寿命の推移であるが、清張がデビューした頃の男性の平均寿命が63.6歳、女性は67.8歳であった。もはや人生50年ではないが、定年年齢の55歳はしばらく続いていたから、男性で10年間、女性では15年間が当時の「老人(高齢者)」の範疇に入ったのであろう。
図1 日本人の平均寿命の推移
(出典)『令和2年版 厚生労働白書』より
そのせいか、ほかの作品にも同じ表現があるかもしれないが、現代ものと歴史ものを問わず、清張の「老い」のイメージは60歳前後に固定している。それはなぜか。
清張が61歳になった1970年は、高齢化率が7%を越えて、日本社会が高齢化社会に突入した元年でもあり、男性の平均寿命も約70歳までに伸長した。しかし、清張作品がもつ輝きの中で「老い」のイメージは通説のままであり、小説全体の斬新さとは無縁な平凡さが目立つ。
清張でさえも全く通俗的な表現に留まった
清張の還暦過ぎの作品でも、高度成長期の若さが徐々に失われ、高齢化が目立ち始めた日本社会の動きは結びつかなかった。これは有吉佐和子『恍惚の人』(新潮社、1972)による「老い」の表現を見た後でも、清張作品には反映されなかったことではっきりしている。
あの清張にしてさえも、「老い」に関心がなければ、全く通俗的な表現に留まったことは教訓になった。
パスカルの言葉
しかし同時に、専門分野に直結しないが、人類の古典を読むと教えられることがたくさんあった。
たとえば「他の部分を知らず、そしてまた全体を知らずに、一部分を知ることは不可能である」はパスカルの言葉であり、高齢化研究におけるマクロ社会学とミクロ社会学との接点をみごとに要約している。(パスカル、1978:94)。
ポアンカレの文章
また、「われわれはあらゆる事実を知ることはできない。よって、知るに値するような事実を選びださなければならない」にも勇気づけられてきた。
このポアンカレの文章でも、高齢者・高齢化研究のテーマ選択に際して、必要な優先順位の重要性を的確に指摘している。(ポアンカレ、1905=1977:287)
ボーボワール『老い』(上下)1970=1972
また、哲学のボーボワール『老い』(上下)にも教えられることが多かった(ボーボワール、1970=1972)。
- 高齢者は実践ではなく、状態で定義される(上:252)。
- 高齢者は消極的な態度に固まり、興味や好奇心に欠けている(上:269)
- 有害である無気力を超え、無為をなくす活動性をもつ(上:313ー317)
- 老いはもろもろの力を減少させ、情熱を衰えさせる(下:473)
- 恵まれた老年をもつのは、多方面の関心事をもつ人である(下:535)
- 無為、倦怠、目的の欠如(下:542-543)
- 老人は未来への足掛かりをもたないので、心が過去に向かい、心配に捉われる(下:567)
- 状態に応じた目的、企て、献身こそ人生の意義を与える(下:637)
『日本のアクティブエイジング』から
私も8月31日に取り上げた『日本のアクティブエイジング』(2014)で、オリジナルな社会学的調査研究の成果として
- 高齢者個人の生きがい活動による健康状態の改善は、直接的に社会全体の医療費の軽減につながる。
- 生きがい活動は本人の精神面での充実をもたらす。
- 生きがい活動参加者は、不参加者に比べて日常的な疾病予防・健康管理に対する意識が高い。
などを具体的に示した。
バトラーの貢献
さて、高齢化研究の古典の一冊としては、バトラー『老後はなぜ悲劇なのか?』が名高い。
バトラーは、1968年に造語した‘ageism’により「年齢差別」問題を提起し、ピューリッツァー賞受賞の名著で、世界の「老人問題史観」に終止符を打った。医師なのに、社会科学の造詣が深かったバトラーの功績の一つに‘productive ageing’概念の提唱がある。
プロダクティブエイジング
バトラーの「プロダクティブエイジング」は、ある程度客観的な判断素材によって決定できる。ただし、「プロダクティブ」は狭い意味での「生産」従事活動を超えて、いわば高齢者により「生み出されたもの」の総体であり、たとえば「社会参加」による効果までも包摂するという理解が望ましい。
「生み出されたもの」の事例には「社会参加」が含まれ、その一部に「生産活動」があるという一連の過程として理解されてきた。すなわち、高齢者の生きがいや社会参加が焦点となるようなミクロ社会学のテーマとして、「プロダクティブエイジング」は使われてきた。
元気な高齢期を表現する言葉
社会学では、元気な高齢期をとらえる言葉として、「プロダクティブエイジング(productive ageing)」「ポジティブエイジング(positive ageing)」「サクセルフルエイジング(successful ageing)」「アクティブエイジング(active ageing)」などの言葉がかなり互換的に使われてきた。
私は、プロダクティブエイジングは何らかの活動により「生きがい」が得られたなどの成果を強調する場合に用いられていて、特に意識面を強調する場合はポジティブエイジング、活動を強調する場合はアクティブエイジング、全体の評価を意識する場合はサクセスフルエイジングが利用され、研究者の関心によってそれぞれが使い分けられていると理解してきた。
なお、ここではageingとagingは利用した原典での表記に準じている。
焦点の移り変わり
もちろん、学術研究の焦点の移り変わりもあり、2015年に刊行された3巻のThe Encyclopedia of Adulthood and Aging(Wiley Blackwell)では、索引に掲げられた専門用語は‘successful aging’だけであり、‘productive aging’と‘graceful aging’は消えていた。
一方、‘positive aging’は‘positive effect, age-related’の一部として、そして‘active aging’もまた’active theory’で触れられたにすぎない。英語圏のagingでもいろいろな事情があるのであろう。
以上の内容は、『日本のアクティブエイジング』(8月31日)でも一通り触れたから細かな説明は省略する。
The Coming of Pax Geriatrica
さて以下はForeign Affairs 2025に掲載されたハースの“The Coming of Pax Geriatrica:Aging Societies and Population Will Lead to Fewer Wars”に触発された私の社会学的想像力の産物である。
このThe Coming of Pax Geriatricaとは何か。Geriatricとは英語で「老人の、老人病の、役立たずの、老いぼれの」を表現する単語である。そして、Pax Geriatricaの論文を書いたハースは、「高齢化が支える(もたらす)世界の平和」の意味を込めている。
Pax Romana やPax Americanaもある
そこで似たような表現を探すと、Pax Romana(ローマ時代、その威力による平和、敵意の存在する不安定な平和)に出会う。
他にもPax Americana(アメリカの支配による平和)、Pax Britannica(19世紀における大英帝国により敵国に強制された平和)、Pax Sovietica(ソ連の支配による平和)などが英語辞典には記されている。
Paxとは「強制された平和」を表現する
すなわちPaxとは‘a period of peace under the rule of a dominant nation’(もっとも優勢な国の支配下における平和の期間)なのであり、そこにはenforcement(武力による強制)が必ず存在している。
たとえば‘peace enforced on states in the ancient Roman Empire’(古代ローマ帝国のなかで強制された平和の状態)というように使う(Oxford Advanced Learner’s Dictionary 0f Current English)。
高齢化のマクロ的視点とミクロ的視点
この論文のサブタイトルが「高齢化と少子化で戦争は減少する」なので、ハースは高齢化の機能をミクロレベルの高齢者個人の健康や生きがい研究ではなく、マクロレベルで戦争の抑止力になると主張した。
私も含めて、高齢化・高齢者の研究でのマクロ的な視点は、社会保障面への言及が精一杯であり、年金や医療費それに生活保護や少子化がらみの家族への支援などがテーマにされてきた。いわばマクロレベルといっても内政面に限定された「高齢化と社会保障」に止まってきたのだが、さすがForeign Affairsと思うのは、「高齢化が世界での戦争を減少させる」という世界レベルのマクロな視点が登場した点であり、これは伝統を超えた(unconventionality)使い方であった。
高齢化のミクロ的視点
従来から継続されてきたミクロな観点では、認知症に代表される精神的な疾患や生活習慣病としての様々な病気の研究は医学が、要支援・要介護の諸問題には社会福祉学が、「生きがいづくり」には心理学・社会学が、「孤老」への対応には社会学がそれぞれ役割分担をしながら研究してきた。
高齢化と少子化で戦争は減少する
ハースのマクロ的な命題は魅力的だが、やや距離を置きながらここではいくつか資料を用意してその内容を検討しておきたい。
この命題に関連する文章は多いが、たとえば「高齢化によって国家間戦争の可能性が大きく低下する」(ハース、2025=2025:43、訳文は翻訳を使用、以下同じ)、「高齢化は戦争をする能力も社会的許容度も低い社会を誕生させる」(同上:43)、「高齢化は国の経済活力を低下させ、戦費を調達する能力も低下する」(同上:44)、「成長率の上昇が国による侵略の可能性を高める傾向があるとすれば、高齢化による成長率の低下は、そのような侵略の可能性を低くする傾向がある」(同上:46)、「各国が高齢化の原因(少子化対策)と結果(高齢者対策)の双方に対処するために支出を増やすと、予算はますます苦しくなるために、軍事費を含む他の支出が圧迫される可能性は高くなる」(同上:47)などが引用できる。
少子化は軍隊に適した若者を減少させる
「高齢化が進む国々では、長期化する戦争に必要な若者を徴兵するのが難しくなる」(同上:48)、「兵士のリクルートをできない高齢国家は、・・・・・・(中略)兵員を確保できずに苦労している」(同上:48)、「高齢になるにつれて人々はより平和主義になり、武力行使に反対する傾向にある」(同上:49)、「高齢者は若者に比べて平和志向だ」(同上:50)、「高齢化した人々は、自国の兵士が戦争で死ぬことへの嫌悪感も強い」(同上:50)。
以上の考察を通して、ハースは「高齢化は、平和へのかつてない大きな力となる可能性が高い」(同上:50)と結論した。この可能性はありえようが、平和と戦争には他の要因が様々に働くから、そのままでは受け取りがたい。
高齢化による予算面と人員面への影響
ハースの研究で見過ごせないのは、「高齢者を含む社会保障への政府支出が国の予算に占める割合が25%を超えると、その国が軍事的紛争を起こす可能性が大きく低下する」(同上:47)という一般命題である。
ただし、原文で確認すると、ハースは「社会保障への政府支出」(government spending on social welfare)を主語にしたり、「多くの先進国の年金、医療、高齢者介護への公的支出」(developed countries’ public spending on pensions, health care, and long-term care for the elderly)がGDPに占める比率としても使用している。すなわち、社会保障負担が政府予算に占める比率なのか、GDPに占める比率なのか、論文を読んだ限りは判然としない。
社会保障費割合が国の予算で25%を超えると、軍事的紛争の可能性が低下する
そこで資料として国立社人研『令和5年度 社会保障費用統計』(2025年7月)を使って、社会保障財源がGDPに占める割合を日本、スウェーデン、ドイツ、フランス間で比較してみよう。
図2から、2022年度の日本とスウェーデン、ドイツ、フランスの4カ国間の比較をすると、その比率は日本が一番低い。内訳としては、「社会保険料拠出」における「事業主拠出」は第4位であり、「被保険者拠出」(被雇用者、自営業者、年金生活者その他の計)はドイツに次いで2位になった。そして「一般政府拠出」はフランス、スウェーデンよりも低い。
図2 社会保障財源がGDPに占める比率の比較
(出典)国立社会保障・人口問題研究所『令和5年度 社会保障費用統計』(2025年7月):9.
図2から、ハースが「軍事的紛争」への歯止めとしたGDPに占める社会保障財源の比率は、この4カ国に関しての2022年度では25%を超えていることが分かった。
高齢化が社会保障財源を増加させれば、総額の中で軍事予算増加が難しくなることは納得できるが、それでも「高齢化は、平和へのかつてない大きな力となる可能性が高い」とは断言するのはやや早計に感じる。
国のトップの高齢化
なぜなら、現在の世界情勢で軍事的戦闘が行われているロシアによるウクライナ侵略戦争では、プーチン大統領の年齢は73歳(1952年10月7日生)、ガザ地区攻撃のネタニヤフ首相は76歳(1949年10月21日生)だからである。
そして両者への影響力を行使できるトランプ大統領は79歳(1946年6月14日生)である。
世界の高齢国家(上位10カ国)
政治状況や選挙の結果によって、大統領や首相が高齢者であっても中年であったとしても、「軍事予算の増減」はそれだけでは決まらない。むしろ表1のような国民全体の高齢化状況への配慮も必要であるというのがハースの本音であろう。
表1 65歳以上の人口割合(上位10カ国)2025年
(出典)総務省「統計トピックス No.146 統計からみた我が国の高齢者」(令和7年9月14日)
高齢化率の上位3カ国でもこれからの「軍事予算」は増額する
彼の命題に従えば、第二次世界大戦における枢軸国(日独伊)は高齢化率の上位3カ国なのだから、これまでの「軍事予算」は緊縮財政の一環を担ってきたが、トランプの強い要請(enforcement)で2030年に向けて2倍3倍の増額が日独伊でも図られている。
そして戦勝国となった「連合国」のアメリカ、フランス、イギリスでも同じように「軍事予算」は膨張の傾向を示している。たとえばロシアの高齢化率は17.8%だが、ウクライナ侵略戦争における軍事予算の大膨張は、社会保障費を圧迫しているのは間違いないであろう。北朝鮮の兵士への支払いも増えているはずである。
戦争には複数の原因がある
なぜなら、今のところハースのいうように高齢化が戦争抑止力を持つかどうかは不明だが、日本史や世界史を学べば分かるように、国家間の戦争へのきっかけには、①他国の領土・資源の獲得、②民族・宗教上の対立の激化、③イデオロギーの対立、④内政面での政権への不満、⑤内政面での失政を欠くための対外進出、などがあることはよく知られている。
材料不足の命題
その意味で、ハースの「高齢化が支える(もたらす)世界の平和」や「指導者や市民が高齢化するにつれて、平和を望む傾向が高まる」といった命題を、そのまま受け止めるには材料が不足している。高齢化が社会保障財源を増加させる機能を持つことは確かだが、社会保障財源問題は内政面での少子化への対応により出生数が回復すれば、財源問題が和らぐことも期待できる。ただしそれには1世代30年はかかる。
その意味でも、「少子化する高齢社会」としての包括的研究(高齢化の原因としての少子化研究、高齢者対策としての高齢化研究の同時進行)の優位性を強調しておきたい。
【参照文献】
- 有吉佐和子,1972,『恍惚の人』新潮社.
- Butler,R.N.,1975,Why Survive?-Being Old in America, Harper & Row Publishers,Inc.( =1991、内薗耕二監訳『老後はなぜ悲劇なのか?』メヂカルフレンド社).
- Haas,M.L.,2025,“The Coming Pax Geriatrica : Aging Societies and Population Will Lead to Fewer Wars” Foreign Affairs Report, September 2025,No.9(=2025 フォーリン・アフェアーズ・ジャパン編集「高齢化が支える世界の平和」):42-50.
- Haas,M.L.,2025,“The Coming Pax Geriatrica : Aging Societies and Population Will Lead to Fewer Wars” Free Article from Foreign Affairs July 24.
- 金子勇,2006.『少子化する高齢社会』日本放送出版協会.
- 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会.
- 金子勇編,2019,『変動のマクロ社会学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇編,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
- Mills,C.W.,1959,The Sociological Imagination, Oxford University Press.(1965=1995 鈴木広訳『社会学的想像力』紀伊国屋書店).
- Pascal,M.,1670,Les Pensées,(= 1978 前田陽一・由木康訳 「パンセ」 責任編集 前田陽一『パスカル』中央公論社):62-447.
- Poincaré,H.,1905, La Valeur de la science.(=1977 吉田洋一訳『科学の価値』岩波書店).
- Simone de Beauvoir,S,1970, La Vieillesse, Edition Gallimard.(=1972 朝吹三吉訳『老い』(上下)人文書院
- Whitbourne,S.K.,2015,The Encyclopedia of Adulthood and Aging ,Wiley Blackwell .
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