私の地元の佐倉市で、国から交付されたコロナ交付金の繰越事務の不手際により、一般財源ベースで約4億2500万円の損失を出す事案が発生しました。
千葉日報:手続きミスで5億3千万円を国に返還 佐倉市、コロナ臨時交付金 救済措置認められず、市長陳謝
本件について私は、謝罪と経緯説明・私が議会でなした討論・再発防止策の提言をブログで公開しました。
佐倉市民にとって多大な損失となった本事案ですが、現在日本の地方議会に蔓延している「権力が肥大化した議会」の問題点を指摘するにはよい機会ともいえます。
そこで本論考では、佐倉市で過去発生した事例を元に、議会多数派が野合し議決権が独占された結果、市民が不利益を被る構造を考えます。
佐倉市議会での会派結託「さくら会連合体」
佐倉市議会は、28名の市議会議員で構成されています。
このうち、さくら会、公明党、自由民主さくらは、現在の議員構成になってから3年間、合計508議案について議会でまったく同じ賛否行動をとり続けています。その意味で、この18名の議員からなる議員団は、議決上は一つの塊ですので、この論考では「さくら会連合体」と呼ぶことにします。
ご案内の通り、市長には議案の提案権しかなく、議会での議決がその成否を握っています。
もし議会が市長提出議案を否決し続ければ、市役所の事業の一切はストップしてしまいますから、行政としては「議会とはよい関係を構築したい」と考えます。まして、議会多数派が完全に賛否行動について結託している状況にあっては、文字通り「是が非でも」彼らを取り込まなければなりません。
事実、市長と議会多数派が反目していた前市長時代の佐倉市は、市の主要政策は議会で軒並み否決され続けました。その象徴的な事例は、前市長時代に佐倉市にできた長嶋茂雄記念球場に関する、2015年補正予算の否決です。
長嶋茂雄記念球場に関する「政局否決」と市民の不利益
佐倉市は、長嶋茂雄氏の生家があり、氏が佐倉高校出身でもある関係で、既存の球場を建て直すにあたり、2013年氏の名前を冠した球場としてリニューアルすることとなりました。
日本のプロ野球に多大なる功績を残した長嶋氏の名に恥じぬ球場とすべく、国からも約7億円もの交付金が内定し、市の予算とあわせ総額約16億7000万円の予算が2015年に組まれましたが、さくら会や公明党などの議会多数派が主導して、当予算を「根こそぎ否決」する修正動議を可決してしまったために、予算が0円となってしまった。結果、当然ですが国からの約7億円の交付金は取り消されてしまう。なお、「予算0円」とする修正動議に賛成した議員は、現在も12名が現役議員として活動しています。
上の賛否表で、「修正案①」に「〇」をしている議員は、当予算を「0円」にした議員たちです。
当球場の建て替え事業は、否決された翌年の2016年、総額約6億6500万円という大幅な縮小予算が議会で認められました。そのため、座席、擁壁、チケット販売所等の設備を大幅に削り、プロ野球の公式試合もできない「長嶋茂雄記念球場」が、佐倉市にできてしまいました。
総額6億6500万円を認めるのならば、国からの交付金7億円を足せば少なくとも13億6500万円の球場はできたはずですが、2015年に上程された予算を「0円」にしたために、確定していた国の交付金約7億円を、議会が全額蹴ってしまった。交付金を7億円無駄にしたという意味では、今回の4億2500万円どころではありません。国としても、長嶋氏の功績を顕彰する目的で予算を立てたわけですから、この交付金には国家の意思も入っています。このような結果になるのであれば、そもそも長嶋氏の名前を冠した球場を、佐倉市に作るべきではなかったのです。
このように、「市民・国民そっちのけ」で、政局のみに明け暮れる議会の振る舞いによる悲惨な結末は、佐倉市民のみならず日本国民にとっての損失であり、佐倉市の恥と言えるでしょう。
さて、佐倉市では現在も、先のとおり28分の18の「圧倒的多数」が議決権を握っています。前の市長時代に議会に延々と嫌がらせをうけたトラウマもある佐倉市執行部には、「さくら会連合体」に対する恐怖が植え付けられている。
一般論として、このような構造になった場合、行政は「議会多数派」を特別扱いせざるをえなくなります。そうなると、議会多数派は自分たちの票田となる会社や団体の便宜をはかるため、行政に対して無理な注文をするようになると言われています。いわゆる「政治が行政を捻じ曲げる」という状況です。
また、そうなると議会多数派の中で特に実権を握る議員は、行政の人事に介入したり、気に入らない入札結果となった場合に議案を否決したりすることができるようになります。佐倉市でも、そのような「不可解な議案の否決」が、過去発生しています。
前編:草ぶえの丘等指定管理者の「否決」からひも解く「佐倉市議会という病」
他方で、自分たちの利権とは関係のない議案については、基本的に「行政に寄り添った議決」をします。自分たちの思う通りに動いてくれる市長はこの上なく「便利な存在」ですから、不祥事などが発生しても、議会では極力穏便に「市民に気づかれないよう」済ませる運営をします。
次回の原稿では、以上の背景をもとに、今回佐倉市で発生した「コロナ交付金の繰越事務の不手際による4億2500万円の損失事案」の佐倉市議会における扱いを確認します。
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