※編集部より：本稿は、八幡和郎さんの『坂本龍馬の「私の履歴書」』（SB新書・電子版が入手可能）、『「会津の悲劇」に異議あり【日本一のサムライたちはなぜ自滅したのか】』 (晋遊舎新書 S12)をもとに、幕末という時代を坂本龍馬が書く「私の履歴書」として振り返る連載です。（過去記事リンクは文末にあります）
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保科正之 Wikipediaより
幕府から藩祖・保科正之の遺訓まで持ち出されて、京都守護職を容保が断るのは、難しかったような気もする。ただ、どうも、条件闘争をしっかりしなかったのだ。そういうことは、どうも会津藩の人は真っ直ぐすぎて苦手らしいのだ。
たとえば、慶応2年（1866年）になって、会津は遠すぎるというのなら駿府にでも国替えしようかという話があったが、最初から長期にわたって京都守護職をつとめろというなら、幕府も最初から幕府領で空き城だった駿府か甲府に移すか、さもなくば、彦根と領地を交換させるべきだったのではなかったのか。
京都での会津の苦難のかなりは、国元との遠さということに起因すると私は思うのだ。
京都守護職として松平容保が着任したのは、文久2年（1862年）12月9日のことだった。東海道から京都に入る玄関口は、南禅寺に近い蹴上というところにある粟田口だが、1000名からなる会津軍団は、そこからすぐの黒谷・金戒光明寺落ち着いた。堂々とした伽藍が丘の上に拡がる寺院で、映画のロケでおなじみだ。
松平容保 Wikipdiaより
のちに御所に近い現在の現在の京都府庁の敷地が守護所になったが、手狭なので、黒谷も引き続き本陣として使われた。
そして、大政奉還と王政復古を受けて德川慶喜とともに京都から退去したのが慶応3年12月だ。若松城落城がその翌年の9月22日だから、わずか6年足らずの出来事だ。
その間のそれそれの年に起きた主な出来事を整理すると次のようになる
文久3年（1863年）将軍家茂上洛。八月十八日の政変で長州追放。
文久4年・元治元年（1864年）池田屋事件。禁門の変。
元治2年・慶応元年（1865年）一会桑（一橋・会津・桑名）全盛。
慶応2年（1866年）第二次征長。将軍家茂死去。孝明天皇崩御。
慶応3年（1867年）大政奉還。龍馬暗殺。王政復古。
慶応4年（1868年）鳥羽伏見の戦い。江戸開城。戊辰戦争。
これをもう少し大きな流れをつかめるように解説するとこうなる。このころの京都では安政の大獄の責任者を標的にして、土佐などの尊皇攘夷派による天誅というテロが横行していた。また、等持院にあった足利歴代将軍の木像の首が三条大橋にさらされた事件は、幕府への公然たる挑戦が始まったと大きな衝撃を与えた。そして、朝廷も長州と連携した三条実美ら過激派の公家に壟断されていた。
これに反発した会津は、薩摩と連携して長州と攘夷派公卿を追い落とすクーデターに踏み切り、これに成功した。「八月十八日の政変」である。翌年に長州兵が上京して起こした禁門の変（元治元年）では、会津のみを敵として他藩の中立を要求した長州の作戦が功を奏して、諸藩は静観したので会津も苦境に立った。
一橋慶喜も水戸出身であるうえに、八月十八日の政変のときは江戸にあって不在で関与していなかったことから、長州に好意的で話し合いを主張したくらいだった。しかし、孝明天皇の後押しで、薩摩や慶喜などの加勢を辛うじて取り付けて危機を脱した。
だが、容保が孝明天皇の意向を尊重しすぎる立場をとったことは、江戸の幕閣から好感を持たれず対立も生じた。しかし尊皇攘夷派と決別し盟友となった一橋慶喜に、容保の実弟で所司代となった松平定敬の桑名を加えたいわゆる「一会桑」が天皇から受けていた信頼を背後に幕閣に対しても徐々に主導権を確立した。
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